たった一度のモテ期なら。
入社3年目も後半。営業で働く仲間たちは軌道に乗って来て、手ごたえややり甲斐を感じているみたい。
私の方は経理課で「手に職がつく」とか「数字がわかるのは後々使える」とはいつも言われるんだけど。
経理は効率化がもっとも進んでいる分野で、私が入社してからだって人が減っても増員なし。いつかAIが普及してなくなる仕事とか言われてる。
手に職なんてついた気がしないのです。
定時に近づき、外回りの人が戻って賑わう営業フロアに足を踏み入れていく。
課長席にたどり着く前に、富樫課長は私に気づいて軽く目を細めた。
「お疲れ様、影森さん。もう経理の取り立てか。今月は早くない?」
「本決算が近くて、少し早回しで仕事してるんです。すみません」
謝るつもりじゃなかったのに、忙しそうな営業さん達の前に出ると私が厄介事を押し付けている気になってしまう。
「さすが経理はきっちりしてるな。俺たちなんて毎月のノルマでいっぱいいっぱいで、迷惑かけてごめんね」
女性達に定評のある素敵な笑顔を向けてくる貴公子に、私ごときが敵うはずもない。
経費精算システムに逐一入力しつつ、証憑類を申請順にナンバリングして紙に貼る作業は確かに面倒だと思う。
それでも溜め込むのは二課だけなんだけどなぁ。
「なんでこんなに面倒な仕組みなんだろうね」
「お手数かけてすみません」
「経理のほうでもう少し引き受けてくれたら営業も助かるんだよね」
「各自、もしくは各課でやることになってます。グループ本社からのお達しです」
小声だけれど内容的にはきっぱり告げると、気だるげにため息をつかれる。それでも、ならぬことはならぬのです。