たった一度のモテ期なら。
「携帯持ってるか?」

聞かれて首を振る。西山はPCを開いて片手で操作していたが、Wi-Fiに繋がらないと通信を諦めた。

「こんな時に限ってスマホ持ってないとか、バカだよな」

「ごめんね」

「俺がバカって話。営業は仕事用持たされてるんだからさ」

そう言う西山は淡々と平然としていた。狭いところが苦手なんて、私の思い込みだったのかもしれない。私の方が1人で慌ててなんの役にも立っていない。

「ごめんね、西山いつもは乗らないのに」

「間が悪いんだよ」

うんざりしたような声に少し驚いた。うん、確かに間が悪い。謝り過ぎるのも嫌がられるだろうから、少し黙っていよう。




でも作業の人ってどのくらいで来るんだろう。30分ぐらい? 他にも止まっているエレベーターが多いならもっと長くを覚悟した方がいいのかな。

時間もわからないって結構嫌なものだなって思う。西山は持っていたPCを床の隅に置いたあと、少し機嫌悪そうにうつむいて黙っている。

「急いでるところだった?」

「いや、ただの社内会議。俺がいなくても平気。そっちは?倉庫行くとこ?」

うん、と答えた途端にフラーッとした揺れがまた始まって、思わず西山のスーツの袖を掴んだ。

何この揺れ方、怖い。
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