たった一度のモテ期なら。
「余震か」

すぐに収まった揺れの後も離れられなかった。「怖い?」と聞かれて袖を掴んだまま「うん」と答えた。

「すぐ出られるから、ちょっとだけ頑張れ」

機嫌の悪さが急に吹き飛んだ優しい声で、そっと髪を撫でてくれる。こんな時にずるいと思うけれど、そのまま肩に甘えたら少し気持ちが落ち着いてきた。

2人とも黙ったまましばらくそうさせてもらってから、だんだん恥ずかしくなってきて袖に掴まったまま少し身体は離す。

「ごめんね、もう平気」

そう告げると、西山は大きく息をつきネクタイの結び目を引いて緩めた。

「ほんといつもは乗らないのに、なんで俺こんな間が悪いんだろうな。なんかの呪いかよ」

間が悪いと言ってたのは自分のことらしい。怒っているわけじゃないんだと少しホッとして、でも西山の方を見られなくなった。

そっと袖を離して、こんなところで2人きりだなと今更意識する。

どうせなら勢いで今言っちゃう? いや、いつまでここにいるかわからないのに気まずくなったら最低。でも、こんな機会がそうあるわけないからってぐるぐる考えて、いつも通り結論は出ないままそっと西山の横顔をうかがった。


うつむき加減で苦しげな顔をしている。息が少し荒い気がする。

暑くもないのにこめかみに汗がにじんできている。西山の様子がおかしかった。

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