たった一度のモテ期なら。
「影森は無理するなよ」

と言い置いていく姿を見送り、北尾さんは「逃げられちゃったか。でも西山くんが一緒でよかったわね」と私をまた振り返る。

え、と言い淀んだ私に「1人は怖いわよ、こういうの」と真顔で言った。

「私も閉じ込められちゃったことあるのよ、数分だけどね」

「はい、1人じゃなくてよかったです。でも私、本当になんとも」

「それでもね、やっぱり精神状態が普通じゃなくなってたりするから、今日のところはゆっくり休んだ方がいいの。後からじわっと怖くなったりね。経験者の言うこと聞くもんよ、こう言うことは」

そこまで言われたら聞かないわけにもいかない。北尾さんに医務室まで付き添ってもらい、少し休むようにと無理やり医療用ベッドに寝かされた。

こんな時間に寝られないし、と思いながら意外にもそれから1時間以上ぐっすりと眠ってしまった自分に驚く。

確かに緊急事態で疲れは出たのかもしれない。
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