たった一度のモテ期なら。
息がかかるくらいの距離で、でも西山がためらったような瞬間。
足元から力が抜けるように床がスーッと突然下がった。
「なに、なに?」
また西山の袖にしがみつく。
「一階まで動かしてるのかも」と冷静に言う声につられて見上げると、階数表示がどんどん下に下がっていく。
その予想通りふわっと一階に停止したところで、でもエレベータードアは開かない。
「多分すぐ開くから。外で何かやってるはず」
ドアを見たままそう言われて、そっと袖を離した。作業員の人が外にいるはずだ。
西山の言う通り1分もせずに開いたドアの外には、経理の北尾さんと人事部長さんも待機していた。
「影森ちゃん!」
北尾さんはエレベーターに乗り込み抱きつく勢いで大丈夫かと聞いてくれたが、作業員の人に「まだ危険ですから降りてください」と冷静に叱られている。
「怖かったね。とりあえず医務室行こう」
なんでもないと言っても北尾さんは念のためと言い張り、人事部長も一応2人ともみてもらうようにと勧めて来た。
地震自体はたいしたことがないものだったらしい。閉じ込められていたから大きな揺れに感じられたのだろう。
「俺は会議あるんで、行きますね」
西山は、強く引き止められる前に荷物を拾い上げて逃げ出した。