寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
「家はどこ? 送ってくよ」
それはとんでもないと、ホテルのエントランスから出たところで足を止める。
目の前にはホテルのスタッフが駐車場から出してきた琢磨さんの車が停車していた。
「大丈夫です。電車で帰れますから」
風見さんのマンションまで送ってもらうわけにはいかない。
振り返った琢磨さんは「そうはいかないよ。乗って」と私の肩を強引に引き寄せた。
「本当に大丈夫ですから」
「別に連れ去ろうってわけじゃないんだ。ちゃんと送り届けるよ」
足を踏ん張ったものの、所詮力で敵うわけもない。
ほかの人の目もあるので、渋々車に乗った。
おおまかな住所を告げて、車が走り出す。
風見さんのマンションの前ではなく、少し離れたところで降ろしてもらうしかないだろう。
以前まで住んでいたおんぼろアパートの前でもいいかもしれない。
そうすれば、“俺が相手するほどの女じゃない”とでも思ってくれるだろうから。
「茜ちゃんのおかげで楽しい夜だったよ」