寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
小声で囁かれ、「あ、えっと……」と理玖さんを紹介しようとしたところで、「風見理玖と申します」と彼が自ら名乗った。
「ちょっと茜ってば人が悪い。こんなに素敵な彼氏がいるんじゃない!」
「ほんと! 隠さなくてもいいのに!」
ふたりから同時に責められタジタジになる。
「違うの、そんなんじゃないから」
理玖さんを困らせてしまう心配から、慌てて訂正する。
彼にはエイミーさんというれっきとした恋人がいる。
「風見さん、茜の彼氏なんですよね?」
私を通り越して、愛美が理玖さんに直接聞いた。
「だから違う――」
「そうです」
私を遮り理玖さんが答える。
え?と私が思ったところで、彼は「大事なパートナーです」と続けた。
パートナー? ……あぁそうか。理玖さんは私の顔を立ててくれたのだ。
今ここで違うと言えば、幸せな友人を前にして私の立場がなくなるから。
でも“彼氏”という言葉を使わず、“パートナー”といういろんな意味に取れる言葉を使ったのは、私に対する抑止のためかもしれない。
「ほらぁ、茜、彼氏がこう言ってるのに」
「素敵すぎるから内緒にしておこうって思ったんでしょー」
ふたりに突っ込まれて、「あぁうん、ごめんね」とぎこちなく肩をすくめた。