寵愛命令~強引社長はウブな秘書を所望する~
◇◇◇
翌日の社内は、理玖さんが結婚するという話題で持ちきりだった。
それもこれも、足立社長が社長室に乗り込んできたせいだろう。
ちょうど退勤時間と重なったことで、ビルの前に横づけされていた車に娘さんが乗っていたことも、そこに理玖さんが乗り込んだところも大勢の人が目撃していたのだ。
私が昨日、数人の女子社員から聞かれて否定した効力は、一瞬にして消え去ったように思える。口を割らないのは秘書だから当たり前だと結論づけられたようだ。
昨夜、理玖さんが帰宅したのは、もう間もなく日付が変わるという頃だった
起きて待っていた私は顔を合わせる勇気が持てず、結局部屋から出られなかった。
結婚の話が進みそうだという報告なら耳にしたくない。
ところが、今朝の理玖さんはどこか疲れたように見えたものの、普段とさほど変わらず、思い切ってどうだったのか尋ねた私には「大丈夫だから心配するな」という答えが返ってきた。
社内の噂を聞きつけ、沙智さんが社長室へこっそりやってきたのは、理玖さんが取締役たちとの打ち合わせで席を外しているときだった。
「茜、どういうことなの?」
心配してくれていることが手に取ってわかるほど、沙智さんの表情が暗い。