復讐劇は苦い恋の味
どうやらコース料理を注文していたようで、次々と美しくて美味しそうな料理が運ばれてくる。


叔母さんが中心になって、私や君嶋くんに話題を振ってくれているけれど、どんな会話をしたのかも、あれほど食べたかった料理の味もほとんど覚えていない。

ただ、記憶に残ったのは昔とは違い、私を見て優しく微笑む彼の笑顔だけ。

私のことを忘れていて、一目惚れとかあり得ない。

あなたのことを私が好きになるとでも思っているの? 世界で一番大嫌いなあなたのことを。


お見合いの席で、ずっとなにも知らず呑気に叔母さんと楽しそうに話している彼に、すべてを打ち明けたい衝動にかられた。

けれど小心者の私は、どうしても昔の記憶が蘇りなにも話すことができず。

前に進めるかなと期待して行ったお見合いの席で、私は深く後悔した。


どうしてお見合い写真を見ていかなかったんだろう。どうして叔母さんに相手の名前くらい、聞いておかなかったんだろう。

どうして私……正面切って「私のこと、覚えていないの? あんなことをしておいて最低」って言えなかったんだろう。

それほどのことをされたのに。……いざ、本人を目の前にしたら、怖くて言えなかった。

この日はただ食事をしただけでお開きとなった。


最後に彼に「機会がありましたらまたぜひ」って言われたけれど、次なんてあるはずないじゃない。もう二度と会いたくない。

この日は帰宅後もずっと昔の辛い思い出に悩まされてばかりだった。
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