愛情の鎖 「番外編」〜すれ違いは蜜の味〜。
俺はポケットに手を突っ込み、目の前の顔色が次第に雲っていくのを見逃さなかった。
そして確信するようにある結論にたどり着き、再び見せた紙を手の平でたたむとポケットにし舞い込んだ。
「梨央の為、と言いつつあんたのとった行動が逆に裏目に出なきゃいいけどな…」
そう吐き捨てた俺は意味深な台詞を残し、その場を後にした。
階段をゆっくり上がり、梨央の部屋の前で立ち止まる。
……と、そのタイミングで玄関の方で扉が閉まる音が聞こえ、俺はようやく肩の力を抜いた。
自分でも知らぬ間に肩に…、いや、全身に苛立ちの力が入っていたらしいことに気付く。
ドアを開け、部屋にはいるとスースーと梨央の寝息が聞こえてきた。
それはいつもよりどこか苦しそうな息のしかたで、ベッドまで足を向けるとすかさず彼女の寝顔を覗き込んだ。
そのまま手を伸ばし、そっと指で額に触れると想像以上に熱かった。
うっすら汗もかいており、そんな姿をみていたら無性に後悔の念が押し寄せてくる。
側に居たくても居てやれない。
そんなもどかしさに眉を寄せる。
例え仕事だったとしても、こんな時に梨央の支えになったのが俺以外の男だったと思うだけで、胸の奥がナイフでえぐられたような強い憤りと痛みさえ感じた。
恋愛というものはふとした瞬間、ボタンの掛け違いのように無意識にすれ違っていくものだということはこの年になれば嫌というほど知っている。
だからこそ、彼女が無理に笑顔を作るのが苦しい。俺の前で気丈に振る舞う姿が辛かった。