ずっとキミが好きでした。
「戸田夏芽に歌ってほしい」






ある日の練習終わり、あっすーは突然そう言ったらしい。






「いやいや、待てよ!今回の曲は俺が作詞作曲したんだから、あすに決定権は無いだろ?」





みっくんのその言葉は正しく、もちろん他のバンドメンバーもみっくんの正当性を認めていた。


でも、あっすーは聞かなかったらしい。




 

「戸田の声は絶対に響く。お前らも聞いただろ?あの透明感のある声は、みくの作った切ないラブソングに合うと思うんだ」   





結局あっすーに押し切られ、みっくん達は何も言えずに、今も尚あっすーの方針に従って練習をしているらしい。





確かに、あっすーの言っていることは間違いではない。


なっつんに出会った時から思っていた。


この子の声、きれいだな…って。




そして、あの日の鼻歌。



おれとは違って音程はばっちり、鼻で歌ってもこぶしが利いてるというか、ビブラートが利いてるというか、とにかく深みのある歌い方だった。



でも、だからって、たまたま幼なじみが連れてきた子を抜擢するなんて、おかしい。


募集したら絶対にもっと歌えそうな人が応募してくるはずだ。


実際にそうしようと意気込んでいる人をおれは知っている。


 


あっすーの独りよがりは未だに健在。


こちらが呆れてしまうほどだ。


話し終えたみっくんもどこか疲れきっていた。






「なっつんに一目惚れしたんだな」






思ったことを率直に口にするとみっくんも大きく頷いた。






「翼もやっぱそう思うか…」






「あっすー、すぐ態度に出すから」







幼なじみの腐れ縁だ。


お互いの性格はほぼほぼわかっているし、おおよその行動は読める。


ど田舎育ちのおれ達は、見えない何かで繋がっているはずだ。






ーーそう思いたいのはどうせおれだけだ。








「翼…ホント…ごめん」







みっくんがおれに思い切り頭を下げた。






みっくんは何も間違ってない。


それなのにみっくんが謝るなんて間違ってる。


おかしい。




夕焼けと同じくらいにおれの心も燃えて熱くなっていた。



 
ーー怒りだった。





誰の気持ちも推し量らず、自分本位に生きているあっすーが許せない。


けれど、おれには何をすることも出来ない。


メンバーじゃないし、楽器も弾けないし、歌もまともに歌えない。


だから何も言えないんだ。

 




じれったい。








じれったい。







じれったい。








おれは沈み行く夕日をただ見つめることしかできなかった。
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