五感のキオク~記憶の中のアナタの声~
「マスターの粋な計らいに」
「え?」
どういう意味か分からず戸惑う私に、彼はそのままグラスを軽くあてる。
チンッ―――
小さく鳴ったグラス音に懐かしさを感じた。
耳に残る記憶はその再現でより色濃く思い出される。
そうだ。彼とはあの頃もこうして乾杯をしていた。
口をつけてみると、フレッシュなオレンジの味がより記憶を鮮明によみがえらせた。
二人で色々な話をした。
仕事の事や今住んでる場所も。
あの頃よりも彼が近くに感じる。
学生と社会人とは違い、お互い社会人であるというだけでこうも違うのか。
少し軽い印象に思っていた彼の声も、こうして聴いてみるとそんなことはなく。
普通に落ち着いた印象の声だった。
――でも、彼は人のもの、なのだ。