君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「樫月家は豪華な檻なんですよ。柚葉さんは既に鎖につながれてるようだけど、」


杉崎さんは私のネックレスの飾りを持ち上げてそう言った。


「まだ今なら逃げ出せるから、早く目を覚ましてください。あの男は、いずれは柚葉さんのダンスを止めさせるでしょう。それをきっかけに、あなたがあなたらしくいられるための行動が制限されていくはずです。」



「そんなはずは……。澪音はとても優しい人ですから」



「口では巧妙に優しい言葉を言えても、本性はどうだろう。

それに、気になることがもうひとつだけあります。」


気になることと言われて嫌な胸騒ぎがしたけれど、日本酒が運ばれてきてまたしばらくの間会話は中断した。焦れったいような思いで店員さんが去るのを待つ。


杉崎さんはガラスの綺麗なお猪口に日本酒を注いで、その一つを私に差し出した。


「日本酒はそれほど得意じゃなくて……」


「これは白ワインのように飲めるから、苦手な人も飲みやすいですよ」


断るタイミングを失って、私も杉崎さんにつられるようにお猪口に口をつけた。華やかな香りと涼しげな味がして確かにとても美味しい。飲み込むと胃が熱くなった。



「当主の妻は一人ではないんです。現代の日本で笑っちゃうような話ですけど、あの家は代々重婚してます。もちろん法律では認められないから、外からみればただの不倫ですけど。」


重婚なんてありえない……と思ったけど、笑えなかった。


だって、澪音から過去に聞いた話とつじつまが合ってしまうから。かつて澪音は、『俺と兄は意図的に母親が分けられている』と言っていた。


「世襲への強いこだわりがあるからなのかな。尋常じゃない感覚ですよね。

柚葉さん、あなたはまだ樫月澪音との幸せを信じられますか?

そもそもこんなことになる前に、誰か止めてくれる人はいなかったんですか」
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