君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
店員さんがビールを綺麗に拭いてくれる間、私の頭はぐるぐると意味のない思索に耽る。


澪音は何も言わなくてもそういうコトはきっちりしてくれる方だし……っていうか何で杉崎さんにそんなことを言われなくちゃならないの!?


「でも大事なことですよ。あの男の子供を妊娠したらあなたの人生が狂わされる。

俺は柚葉さんが不幸になるのを、ただ見てることなんてできませんから」



「私、幸せですよ?」



「樫月澪音の妻になったら、手足をもがれるようにあなたの自由は奪われるんですよ。それでも幸せといえますか?」



「そんなことは……」


澪音は私のダンスの邪魔をする気はないと言っていたし、バイトもオーディションもこれまで通り好きに行かせてくれる。自由を奪われるなんてありえない……と思ったけど、何故か心にわだかまりがあった。



「ただの恋人ならまだ良いですけど、この先婚約して結婚したら話は別です。

跡継ぎを育てて、家を取り仕切って……。妻がダンスなんて世俗的なものに傾倒するのはもってのほか。

たとえ湯水のような財力があったとしても、俺はそういう人生を幸せとは思いません。あなたもそういうタイプでしょう」


とんでもない話の始まりだったけれど、杉崎さんは至って真剣に話していた。


そして、その内容は私が敢えて見ないふりをしていたことでもあった。


私は澪音の恋人にはなれても、きっと樫月家の嫁としては失格なんじゃないかなと思う。

それに、今の生活をすべて捨てて澪音の家に飛び込むのは、やっぱり怖い。


プロポーズもされていないのにこんな心配をしても仕方ないんだけど……
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