君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
私を強く止めたのは、澪音のお兄さんの弥太郎さんだけだ。弥太郎さんは、とにかく去れの一点張りだったっけ。


……でも。


「私にはどうしても澪音のこと、あなたが言うような人には見えないんです」


一緒に過ごした時間や、澪音が私にかけてくれたたくさんの言葉で、私は澪音が誠実な人だと知っている。


「私は馬鹿だから、自分が決めたことに自信は持てない方なんですけど……

だから……昔からひとつだけ決めていることがあって。

私は直接自分の目で見て、耳で聞いたものだけしか信じないことにしてるんです。

杉崎さんは私のこと心配してくれてるかもしれないけど、そのお話を聞いたからって、澪音を見る目を変えたりしません」


やけにたくさん話してしまったのはお酒のせいかもしれないし、心の奥では不安があるからかもしれない。杉崎さんはそんな私を痛ましそうに見ていた。


「自分の中にぶれないルールを持っていられる人を、馬鹿とは言いません。柚葉さんはとても聡明だ。」


杉崎さんが日本酒を継ぎ足してくれようとしたので、そっと断った。これ以上飲むと悪酔いしてしまいそうだ。


「これから見るのはシラフではちょっとキツイかもしれないけど、大丈夫ですか?」


「何ですかそれ……?」


「あなたの心がもっと弱くて簡単に揺れてしまうような人なら、見せる必要もなかったんですけどね。

俺だっていたずらにあなたを傷付けたいわけじゃないから」
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