君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「疲れた顔してるな、何かあったのか?」

いつの間にか戻ってきた澪音が気遣わしげに訊ねる。さっきあったことを説明すれば、無用な心配をさせてしまうだろう。


「なんにも。……大丈夫です」


「……そう? 少し外にでも行こうか?」


「主賓が会場から居なくなったらダメなんじゃないですか?

澪音と話したがってる人はたくさんいるみたいだし」


「構わないさ。最低限の義理は果たしたし、俺は柚葉と少し休みたい。

何か飲む?シャンパンでいい?」


優しい言葉とともに労るように微笑まれる。


「お酒じゃない方が良いです、喉が乾いて」


澪音は近くの給仕に声をかけると、私の腰に手を添えてバルコニーに向かった。


今日のことについて、澪音に言いたいことは山ほどある。だいたい、説明が圧倒的に足りてないんだもの。私は想像を越えた出来事に翻弄されっぱなしだ。


文句を言ってやるんだと意気込んで隣を見上げると、乾いた目をした澪音の横顔が見えた。


「……くだらないだろ」


星も月も見えない夜空に向かって、無感動に放たれる言葉。
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