君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
その日はよく晴れていて、私は冷たくて乾いた空気の中で深呼吸をした。


この家の来るのは二度目だ。


執事の方に案内されて廊下を歩くと、途中から静かなピアノの音が聞こえてくる。


綺麗な曲。澪音は本当にピアノが好きなんだな……


しかし、扉を開けて見えたのは澪音ではなかった。ピアノの前にいたのは女性で、私に気が付くとはっとしたように演奏を止めた。


「あれ? かぐや様……!」


「まぁ、柚葉様」



パーティーで会った時と同じ、月光のような雰囲気の美人だ。でも今日は、私を見る表情がどこか悲しげだ。


「かぐや様が演奏してたんですね。澪音と間違えちゃいました。

これ、なんていう曲なんですか……?」


「ラヴェルの、亡き王女のためのパヴァーヌという曲です。暗い曲ですよね」


「いえいえ、凄く綺麗です! 良かったら続けてください」


かぐや姫が演奏を再開すると、静かで淡々としているのに切なくなるようなメロディが流れ始める。


暫く耳を傾けていると、澪音が息を切らしてやって来た。


「柚葉、ここにいたのか。

すぐにこっちに来てくれ」


急いでいる理由を聞いても、「いいから」としか言ってくれない。腕を引かれながら長い廊下を歩いていくと、澪音はひときわ豪華な扉の前で立ち止まった。


「お父様、澪音です。失礼します」


いきなりお父様!?


心の準備できてないのに!と澪音の横顔を見上げると、彼は険しい表情で父親を見つめていた。
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