君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
その日の美味しそうな夕食も、何がどんな味だったか全くわからないまま終わり、


「どうして私がこの家で暮らすことになってるんだろ……」


やっと一人きりになれたお風呂場で、ため息をついた。


「今日は心臓に悪いことばっかり。

あぁ……クロスカフェの賄いが食べたい」


バイトの休憩時間に慌ただしく食べる賄いの方が、今日のご飯よりずっと味わって食べてる気がする。


一歩間違えればメイドの人が髪や体を洗おうとするので、それだけは全力で拒否する。広すぎる大理石の浴室を見渡しながら、さっきの会話を思い出していた。


……


「この家に暮らすなんて無理です！！

私、クロスカフェで働かないといけないし」


「アルバイトなんだろ？辞めれば？」


「そういう訳にはいきません！

私が辞めたらオーナーだって困るし、それにあのお店は私の大事な居場所なんです。簡単に辞められませんよ！」


「……わかったよ、それならここから通え。

送迎させるから、それで良いだろ？」


バイトなのに車で送り迎えされてしまうのは変だけど、そう言われてしまうとバイトを理由に反論しにくい。


「……でもダンスのレッスンもありますし」


「専属のトレーナーをつけるよ。

茂田、手配を頼む。トレーナーは女限定で」


「畏まりました」


「えぇ……？

あの、でもたまにオーディションとかダンスの仕事もあるんですが」


「好きにしたら良いよ」


そうやってここでは暮らして行けない理由をひとつひとつ潰されて、結局流されてしまった。


ただの恋人代行なのに……。


こうなったら、意地でも婚約破棄して早くこの仕事を終わらせないと、私の平穏な日常に帰れなくなってしまう。
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