君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
思いがけず背後から声がして、びくっと全身が固まった。


「澪音!」


心臓がばくばくしたまま、澪音に背中を押されるように部屋に入る。


「まだ、寝てなかったんですか……」


「先に寝るなんて勿体ないことできるか。

話すのは26時間ぶりくらいだな。柚葉、今日も会えて嬉しいよ。早くこうしたかった」


言うなり体にまとわりつくように腕を回される。私の髪をかき分けるようにして


「髪がまだ濡れてる。適当に乾かしてきたな、風邪引くぞ」

と笑った。いつ見ても慣れないくらい綺麗な顔。真顔だとちょっと冷たそうで近寄りがたいのに、今は人懐っこいと言ってもいいほど緩んだ表情をしている。


「あの、私のこと犬とか着ぐるみっぽく扱うの止めてほしいんですが……」


「そんなことはしてない。柚葉を愛でているだけだ。迷惑そうな顔もたまらないな」


澪音は私の髪に残る水気をタオルで拭きながら、髪に唇をつけた。私で遊んでいるのか、かぐや姫の身代わりにしているのか知らないけれど、私だって我慢の限界はあるのだ。


「止めてください、澪音」


手を振り払って距離をとる。


「……どうした? 何か怒ってる?」


「別に怒ってないです。ベタベタしてほしくないだけ」


目を伏せた澪音は、分かりやすくしゅん、と落ち込んだ。まるで、私の方が苛めているみたいな気になってしまう。


「ごめん、気に触ったなら謝る。俺は柚葉にはどうしても触れたくなっちゃうんだよ。

元気もないし、何かあったのか?

俺でよければ、話を聞くけど」


心配そうに顔を覗きこまれる。優しくされると余計に辛い。

「澪音に相談できることじゃないんです。

……今日はもう寝ますから、近くに来ないで下さい」

目を逸らして早口で捲し立てた。声が尖っているのが分かったけど、もう自分ではどうしようもない。
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