君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「ピアノの器用さと、そういうのは別物なんだって……

少し笑ったな? いい調子だ、そういう顔でいろ。

今は辛くても笑うんだ。笑ってるうちに少しずつ心が前向きになるから。」


「それは、澪音の経験談ですか?」


澪音はかぐや姫への失恋から、そうやって立ち直ったのだろうか、または、今も立ち直ろうとしているのだろうか。


「そうだよ。恋愛に限らず、俺は何かを諦めるのが得意だったんだ。全然自慢にならないけどな」


澪音は自嘲するように笑う。寂しそうな目を見ると、心がきゅっと掴まれるように痛い。


「澪音はいつもキラキラしてて、自信に溢れて幸せに見えるのに。そんな事を思っているなんて、人ってわからないものですね。」


「……そう見えるか?

柚葉だって、俺には眩しく見える。幸せそうに笑うし、ウエイトレス姿の君は楽しそうに働いてて、見ている方まで元気になるんだ。」


「澪音がお店にいるときにはピアノが流れてるから、実際に働いてて楽しいんですよ。

想像したら聞きたくなってきました。できれば早くお店に来てください」


「柚葉の気が晴れるなら、店じゃなくてもここでいくらでも弾くよ。

今日は柚葉も一緒に弾いてみる?」


「いやいや、私はピアノ弾けませんよ!

それに深夜だし……」


「大丈夫。柚葉はダンスするからリズム感はあるし、この曲は簡単なメロディーのループだから。それに部屋は防音してある」

と言って、良く知っているクリスマスソングのメロディーをゆっくりと弾いてくれた。鍵盤の白いキーだけを使っているので、これなら私にも弾けるかもしれない。


「ラストクリスマス、ですか」


「日本では毎年よく流れてるから、耳が覚えてるだろ?

ほら、こっちに座って」
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