君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
その問には答えられず、長い間押し黙っていた。


ハーブティーを淹れて、澪音と一緒に飲んでいると自然と涙が溢れてくる。澪音に八つ当たりした自分が情けないし、こんな自分勝手な感情で澪音に余計な心配をかけているのが申し訳ない。

澪音はぼたぼたと涙を落とす私に手をを伸ばそうとして、はっとしたように手を止めた。その間、私は何か言わなきゃとずっと言葉を探していた。


「実は、失恋したんです」


「え……?」


澪音はたっぷりと10秒ほど固まって、額に手を当てて独り言のように呟いた。


「そうか……そうだよな。柚葉に彼氏がいても不思議じゃないよな。今までどういうわけか想像したことなかったけど……」


「いえ、彼氏はいないです。

私が一方的に好きで、しかも成り行きで相手には別の好きな人がいると分かっただけで」


澪音はとても苦い薬でも飲むように、時間をかけてハープティーを飲み下した。


「失恋の辛さは俺も知ってる。

今は辛くても、何も考えられないほど苦しい期間はそれほど長くない。

大丈夫。俺がついてるから柚葉はすぐに元気になれるよ。」


俺がついてるからと言われても、失恋相手はその澪音だ。当の本人にそうとは知らずに慰められてしまうなんて、全然大丈夫な気がしない。


「その顔は信じてないな?

騙されたと思って、今日の良かったことを何でもいいから俺に話してみろ」


澪音の声も表情も柔らかい。お茶を飲みながら私が話すのを待っているようなので、甘えるようにぽつぽつと口を開いた。


「良かったことですか……

クロスカフェで、クリスマスツリーを飾りました。凄く綺麗です。ピアノの横にあるんです」


「もうそんな時期か。柚葉が飾ったツリーなら見てみたいな。次に店に行くときは、クリスマスソングでも弾くか」


澪音の弾くクリスマスソングはきっと優しくて綺麗な音色なんだろうな。想像すると、それだけで嬉しくになる。


「はい、弾いてくれるの楽しみにしてます。

でも澪音、あんなにピアノが上手なのに不器用なんて、意外過ぎます」
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