イノセント

バスローブを羽織 ベッドに入る。
(Shalloutから話を聞きながら 自分で清拭をしていた。)

昨日は死の恐怖を目前にしてほとんど眠れて居なかったからか、眼を閉じると直ぐに眠りの世界に誘われた。

ベッドで寝ることができるのも久しぶりだ。
固まっていた身体がほぐされていくようだ。

獄中にはベッドも布団も、何なら 薄い毛布の1つも無かった。

毎年 冬になると夜間に凍死してしまう人が出るほどだった。

暖かい布団に包まれて快眠だったのに、ふっと寝苦しくなり目を覚ます。

薄く目を開くと 首に腕が巻き付いていた。そりゃあ寝苦しい訳だ。

目の前に居たのは、Dainty……私の元婚約者。

「あら、起こしちゃったかしら。」

相変わらずの美貌、そして そのマイペースさ。

「何をしているんだ?」

「久しぶりにVictorが居るんだもん、嬉しくて。」

根本的に話が噛み合っていない。

「Abelと婚約しているんだろう?
なら Abelに見つかると、不味いだろ。」

元々は 私とDaintyが婚約関係にあったのだが、私が獄に入ったことで AbelとDaintyが婚約関係を結び直したそうだ。

Abelの息子の母親はDaintyだと 先程 Shalloutに聞いた。

私の知らない間に私の恋人(少なくとも私はそう思っていた)は一児の母になっていた。

「あら、私が好きなのは今も昔もVictorだけよ?」

そんな浮ついたこと、許される訳がない。

でも、もしも許されるのであれば……

いや、そんなことを願ったところで どうにもならない。

彼女は既にAbelの妻としての役割を担い、果たしている。

2人の間には子供もいる。

私が2人の間を掻き乱すわけにはいかない。

Daintyは言ったところで動いてくれそうにもないから、私がベッドから出ようと上半身を起こす。

積もりに積もった疲れは まだ取れていないのだが……。

胴回りに手を回され、抱きつかれる。

「……こら、Dainty。辞めなさい。
互いの立場があるだろう?」

「あんな堅苦しい立場なんて、無くていいわ。」

"Victorの妻になれるのなら、全然 我慢するんだけれど" などと呟くDainty。

「相変わらず、君は我儘ばかりだ。」

別に悪く思っている訳ではない。

そんなところも愛おしいと思う。

けれど 私がそのような感情を抱くことは許されていない、一目瞭然だ。
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