宵の朔に-主さまの気まぐれ-
凶姫が部屋に戻ると、朧は赤子を寝かしつけた後、月見酒をしていた雪男に駆け寄って何度も袖を引っ張った。


「お師匠様!聞いて下さい!」


「お?なんだよ、どうした?」


「兄様が…兄様が凶姫さんを夜伽の相手に指名したらしいんです」


「へっ!?」


思わず素っ頓狂な声を上げた雪男は慌てて片手で口を覆うと、ふたりして顔を寄せてひそひそと声を潜めた。


「それって初めてのことじゃないか?」


「そうなんです。夜伽の相手っていうか…これはもう…あれですよね?」


「んん、ほぼ嫁に選んだのと同じだよな。柚葉には悪いけど、俺もそうなるだろうなって思ってた」


「だって兄様、凶姫さんと話してる時すごく楽しそうですもん。やだっ、夜伽なんて…!兄様、大胆…」


「主さまは元々強引だからなあ。で、凶姫もまんざらじゃない感じだったか?」


朧が即答で頷くと、雪男はにやにやしながら盃を口に運んだ。

朔に気になる女ができたと打ち明けられたのがつい先程のことだっただけに、朧に盃を渡して注いでやると、ふたりで酒を飲み明かして笑い合う。


「凶姫は猫っぽくて気まぐれで可愛いからなあ。主さまも参っちまったか」


「…主さま"も”?お師匠様も参っちゃったってことですか?」


じわりと責められた雪男は、慌てて手を振って訂正しながら後ずさった。


「い、いや、俺は思ってねえし!そういう男も多いだろうなーって話!」


「どうだか」


ふくれっ面で嫉妬する朧を笑いながら抱き寄せた雪男は、朔の幸せを祈りながら月を見上げた。


「"渡り”をやっつければあのふたりは夫婦になるだろうな。朧…俺も戦いの最中に飛び込むけど心配するなよな」


「大丈夫ですよお師匠様。私も共に戦いますから」


口付けを交わし、誓い合った。
< 125 / 551 >

この作品をシェア

pagetop