宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「何者かが俺のものにちょっかいを出しているな。腹立たしい」


主のその言葉に女…いや、少女に近いその者は部屋の隅で膝を抱えて座りながら顔を上げた。

周囲には散らばった手足や胴体――主の製造工場は乱雑に散らかり、女は無表情のまま立ち上がって製造に励む主の傍に立った。


「俺の可愛い傀儡よ、今大事なところで俺は手が離せん。お前が行って殺して来い」


「…ですが主…」


「本来なら俺のこの手で殺してやりたいんだが、お前に頼んでいるんだぞ。できるのかできないのか、どちらだ?」


「…できます」


「行け」


――傀儡と呼ばれた女は、机の上に置かれてある紅玉のようなふたつの石をちらりと盗み見た。

…主はこれを手に入れて以来、この石に…"目”に見合う傀儡を作ろうとしていた。

そして失敗を繰り返しては当たり散らし、作った傀儡を壊してまた材料を探しに外出する…その繰り返し。


「…殺せばいいのですか?」


「そうだな、できれば半殺しがいい。これが出来次第俺も行く。あの女に手を出そうとは…つくづく懲りぬ男共よ」


主は東の島国に住んでいたあの女に呪いをかけた。

もしその身に触れる男が現れたならば、その男を殺す――


もしお前が男を愛する日が来たのならば、その男を殺す――


その執着は尋常ではなく、主があんなにひとりの女に固執するのははじめてのこと。


あの目を奪って以来、主は熱に浮かされたように傀儡を作っては壊すを繰り返している。


「…行ってきます」


返事はない。

無心に傀儡を作っている主を一度見つめた"最愛の傀儡”は、開けた次元の穴に身を投じてその場から姿を消した。
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