宵の朔に-主さまの気まぐれ-
百鬼夜行に出る直前、朔は皆を呼び止めて縁側の前に集結させた。

一体何事かと首を傾げる百鬼たちを座らせた朔は、にこっと笑って皆の不安を払拭させた。


「お前たち、"渡り”は知っているな?」


「ああ、外の奴らのことですか?それが一体…」


「"渡り”がここを襲いにやって来る。いや…ここというよりは、俺と凶姫を殺しにやって来ると言った方がいいだろうな」


一斉に皆がざわついた。

朔が簡単にやられるとは毛頭思ってはいないが、"渡り”とは似て非なる力を使う厄介な存在だ。

しかも凶姫も襲われるとは一体?


「元々は凶姫の目を奪った奴だ。俺が凶姫と柚葉を救ってここに連れてきたことで、奴はここに配下を送り出して凶姫を襲わせた。そいつの話では次は俺らしい」


「そんな!返り討ちにしてやろうぜ!」


「そうだそうだ!」


「まあ待て待て。俺だってみすみす殺されはしない。だが俺と居るお前たちにも危険が生じるんだ。それを知っておいてもらいたかった」


――百鬼とは、各々が一騎当千。

そして銀や雪男たち古参の妖は、一騎当千どころではなく等倍の力を持つ。

そんな者たちが常に朔の傍に居て、また朔を守り、共に行く。


「俺たちが主さまを守るんだ!やってやろうぜ!」


血気盛んな声を上げる百鬼たちに朔は苦笑しながら小さく頭を下げた。


「ありがたい。だがお前たちのことは俺が守る。出くわしたら決してひとりで向かって行くな。声を上げろ。分かったな?」


おう、と応じる声。


話すことを話して満足した朔が腰を上げた時――


「で…主さまはどちらの姫を嫁に貰うんで?というよりも両方ですかい?」


苦笑が滲む。


「馬鹿言ってないでお前たち!行くぞ!」


「誤魔化したぞ!どっちだどっちだ!」


わいわい言いながら先頭を行く朔に続く。


しかしこの日から皆に緊張感といつも以上のやる気が漲り、結果結束力をさらに高めることとなった。
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