宵の朔に-主さまの気まぐれ-
それから一週間が経ち、傷の治療をしてくれていた晴明からもう動いていいと言われた凶姫は、はじめて傷口に触れた。
穴自体は塞がったがまだ傷口は醜く、もしかしたら跡が残るかもしれない――
指でたどると肉は引きつって盛り上がっていて、ため息をついた凶姫は自嘲気味に笑った。
「まあ、もう私の身体を見せることはないでしょうからいいんだけれど」
「商売としてはそうだな。でも俺が見るし」
「一回きりでしょう?そんなの数に入らないわ」
――一回きり?
そんな約束をした覚えはないが凶姫はそう思い込んでいるらしく、朔が首を傾げていると、凶姫は出口をすっと指した。
「着替えるから出て行って」
「出て行かない。背中を向けてるからその間に着替えて。終わったら秘湯に連れて行く」
それを素直に信じた凶姫が着替えを始めると、朔は一応背中を向けて見ないようにしながらいつも持ち歩いている天叢雲の鞘を撫でた。
「誰にも言ってないな?」
「言ってないわよ。秘湯に入れば傷跡も見えるかもしれないし…あ、着替えも持って行かなくちゃ」
浮かれて弾んでいる声に笑みが湧き、百鬼夜行から戻って来たばかりの朔は最近いつも以上に神経を尖らせているため温泉に入るのを楽しみにしていた。
「一応雪男だけには知らせておいた。言っておかないと後でものすごく怒られるから」
「それはそうでしょうね、あなたが居なくなったらこの国の妖は好き放題よ。準備できたわ、行きましょう」
立ち上がって着替えをすることはできたものの――一歩踏み出した凶姫が大きくよろけて、朔が即座に駆け寄って身体を受け止めた。
「足が萎えちゃってるわ…」
「無理して歩かなくていい。俺が連れて行くから」
ひょいっと凶姫を抱き上げると、少し気恥しそうにしている様子につい顔を寄せたくなる。
なんとか自制しながら裏庭に出て待たせていた猫又の背中に乗せた。
「こいつはあまり揺れないから傷には響かないはずだ。猫又、頼んだぞ」
「了解にゃ」
一路秘湯へ。
穴自体は塞がったがまだ傷口は醜く、もしかしたら跡が残るかもしれない――
指でたどると肉は引きつって盛り上がっていて、ため息をついた凶姫は自嘲気味に笑った。
「まあ、もう私の身体を見せることはないでしょうからいいんだけれど」
「商売としてはそうだな。でも俺が見るし」
「一回きりでしょう?そんなの数に入らないわ」
――一回きり?
そんな約束をした覚えはないが凶姫はそう思い込んでいるらしく、朔が首を傾げていると、凶姫は出口をすっと指した。
「着替えるから出て行って」
「出て行かない。背中を向けてるからその間に着替えて。終わったら秘湯に連れて行く」
それを素直に信じた凶姫が着替えを始めると、朔は一応背中を向けて見ないようにしながらいつも持ち歩いている天叢雲の鞘を撫でた。
「誰にも言ってないな?」
「言ってないわよ。秘湯に入れば傷跡も見えるかもしれないし…あ、着替えも持って行かなくちゃ」
浮かれて弾んでいる声に笑みが湧き、百鬼夜行から戻って来たばかりの朔は最近いつも以上に神経を尖らせているため温泉に入るのを楽しみにしていた。
「一応雪男だけには知らせておいた。言っておかないと後でものすごく怒られるから」
「それはそうでしょうね、あなたが居なくなったらこの国の妖は好き放題よ。準備できたわ、行きましょう」
立ち上がって着替えをすることはできたものの――一歩踏み出した凶姫が大きくよろけて、朔が即座に駆け寄って身体を受け止めた。
「足が萎えちゃってるわ…」
「無理して歩かなくていい。俺が連れて行くから」
ひょいっと凶姫を抱き上げると、少し気恥しそうにしている様子につい顔を寄せたくなる。
なんとか自制しながら裏庭に出て待たせていた猫又の背中に乗せた。
「こいつはあまり揺れないから傷には響かないはずだ。猫又、頼んだぞ」
「了解にゃ」
一路秘湯へ。