宵の朔に-主さまの気まぐれ-
雷光が空を駆け巡る。

天候を左右するほどの激しい怒りに人々は戸をぴたりと閉めて身を縮ませていた。

その張本人は、太刀筋も見切れないほど速い斬撃を黄泉に放ち、一歩も隙を与えなかった。


はじめて見た朔の本気の打ち込みに銀も雪男も目を見張る。

まだ秘めているものがあるのかと思うと改めて主に惚れ込み、美しくも残酷な一振り一振りを見逃さないように意識を集中させていた。


「なかなか…っ、やるな…!」


「俺を怒らせたお前が悪い。ここで必ず死んでもらう。覚悟しろ」


黄泉の全身にはすでに切り傷が多々あり、息も上がっていた。

それもこれも近距離での戦いにはあまり慣れていないという弱点があり、最も近距離戦を得意とする朔にとっては赤子のようなものだった。


「おいなまくら。今日は仕事をしてもらうぞ」


『なまくらじゃない。"渡り”か…くくっ、さてどんな血の味がするのやら』


朔の呼びかけに答えたのは、手に握られている妖刀天叢雲だ。

常に血に飢えていて、長年封じられていたこの妖刀を父の十六夜が封印を解除してからというもの、次代の自分の手に渡って使っているが、力量不足の者が手にするとその魂を吸い取られてしまうという恐ろしき刀。


――天叢雲から妖気が噴き出す。

まだ奥の手があるのかと息を呑んだ黄泉が身構えた。

それを上空から一歩も動かずに見ていた冥は、命の危機に立たされたことを察知するや否や――次元の穴に身を投じて姿を消した。


この時、皆が油断していた。

地上の黄泉と朔の戦いに目を奪われて、凶姫に気を配ることを一瞬忘れていた。


それが、予期せぬ出来事を引き起こす。
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