宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「月…!すごい妖気…!」
「主さまは常に余力を残して戦ってるんだけど、今日は違うな。先代に太刀筋は似てるけど…なんか違う。すげえ…」
見惚れる雪男と同様に銀もまた不測の事態にならぬよう気を張りながらも、怒りに身を任せつつも冷静さは失っていない朔の一振り一振りから目を離さない。
へたり込んでいたままの凶姫は、戦いの凄まじい熱気と妖気、そして"渡り”が現れたことへの恐怖で一歩も動けないでいた。
雪男が凶姫の眼前に立ち塞がってくれているため、朧は部屋から出て来た柚葉に駆け寄る。
いかにもか弱くまた戦いへの恐怖に足を震わせている柚葉が狙われないように手を伸ばした時――一瞬隙が生まれた。
また黄泉も上空から冥が消えたことに気付けないでいるほど朔が放つ殺気と圧迫感に抵抗するのに精いっぱいで気を配る余裕がなく、ただただ軽んじていた自身に舌打ちしていたのだが――
「お前は…死んで…!」
「え…!?」
凶姫の背後に突如現れた次元の穴から冥が姿を現す。
小さな叫び声に一瞬朔の気が削がれて黄泉の命を奪わんと振り上げた刀の手が止まった。
振り返った。
その一瞬を見逃さなかった黄泉が、朔の腹部目掛けて黒刀をずぶりと沈めた。
「…!」
「!主さま!!」
「朔!!」
「ふははは!俺に背中を見せるとは不遜な。お前のその腹は腐り、全身に毒が回るだろう。それを見届け……冥!貴様…!」
最初は隙を作ってくれたのだと勘違いしていた黄泉だったが――冥は、明らかな殺気を凶姫に向けて短刀をその細い首目掛けて振り下ろしていた。
抜かれた黒刀から噴き出す鮮血を手で押さえながらも朔もまた強く雪男に命じた。
「氷雨!守れ!」
傷つけられた主を思いながらも身体が勝手に動く。
瞬時に顕現させた雪月花がその振り上げた冥の左腕を肩口から斬ってぼとりと落とした。
「く…っ」
「貴様…!俺の傀儡の左腕までをも奪うか!」
凶姫を傷つける手段を失った冥は、黄泉の激高を買うのを恐れて落とされた左腕を口で拾い上げると次元の穴へ消えてゆく。
怒りの矛先を朔に向けた黄泉は、大量の血を失ってみるみる顔色が真っ白になる朔目掛けて再び黒刀を振り下ろした。
――やられる。
冷静にそう悟りながらも、最期に頭に浮かんだのは――ひとりの男の名。
「かぐ、や…」
黒刀を避けられず、駆け寄って来る銀と雪男を霞む目で見ながらも、心の中でまた名を呼ぶ。
「やっと呼んでくれましたね、兄さん」
やわらかなその声はすぐ傍から聞こえて、ほっとして、意識を失った。
「主さまは常に余力を残して戦ってるんだけど、今日は違うな。先代に太刀筋は似てるけど…なんか違う。すげえ…」
見惚れる雪男と同様に銀もまた不測の事態にならぬよう気を張りながらも、怒りに身を任せつつも冷静さは失っていない朔の一振り一振りから目を離さない。
へたり込んでいたままの凶姫は、戦いの凄まじい熱気と妖気、そして"渡り”が現れたことへの恐怖で一歩も動けないでいた。
雪男が凶姫の眼前に立ち塞がってくれているため、朧は部屋から出て来た柚葉に駆け寄る。
いかにもか弱くまた戦いへの恐怖に足を震わせている柚葉が狙われないように手を伸ばした時――一瞬隙が生まれた。
また黄泉も上空から冥が消えたことに気付けないでいるほど朔が放つ殺気と圧迫感に抵抗するのに精いっぱいで気を配る余裕がなく、ただただ軽んじていた自身に舌打ちしていたのだが――
「お前は…死んで…!」
「え…!?」
凶姫の背後に突如現れた次元の穴から冥が姿を現す。
小さな叫び声に一瞬朔の気が削がれて黄泉の命を奪わんと振り上げた刀の手が止まった。
振り返った。
その一瞬を見逃さなかった黄泉が、朔の腹部目掛けて黒刀をずぶりと沈めた。
「…!」
「!主さま!!」
「朔!!」
「ふははは!俺に背中を見せるとは不遜な。お前のその腹は腐り、全身に毒が回るだろう。それを見届け……冥!貴様…!」
最初は隙を作ってくれたのだと勘違いしていた黄泉だったが――冥は、明らかな殺気を凶姫に向けて短刀をその細い首目掛けて振り下ろしていた。
抜かれた黒刀から噴き出す鮮血を手で押さえながらも朔もまた強く雪男に命じた。
「氷雨!守れ!」
傷つけられた主を思いながらも身体が勝手に動く。
瞬時に顕現させた雪月花がその振り上げた冥の左腕を肩口から斬ってぼとりと落とした。
「く…っ」
「貴様…!俺の傀儡の左腕までをも奪うか!」
凶姫を傷つける手段を失った冥は、黄泉の激高を買うのを恐れて落とされた左腕を口で拾い上げると次元の穴へ消えてゆく。
怒りの矛先を朔に向けた黄泉は、大量の血を失ってみるみる顔色が真っ白になる朔目掛けて再び黒刀を振り下ろした。
――やられる。
冷静にそう悟りながらも、最期に頭に浮かんだのは――ひとりの男の名。
「かぐ、や…」
黒刀を避けられず、駆け寄って来る銀と雪男を霞む目で見ながらも、心の中でまた名を呼ぶ。
「やっと呼んでくれましたね、兄さん」
やわらかなその声はすぐ傍から聞こえて、ほっとして、意識を失った。