宵の朔に-主さまの気まぐれ-
明け方、誰かの視線を感じて目覚めた柚葉が寝ぼけ眼のまま顔を上げると――冷淡な眼差しでこちらを見下ろしている十六夜と目が合った。


「…朔が心配か」


「…!せ、先代様…」


十六夜に話しかけられて言葉に詰まっているとそのまま部屋に入って行き、柚葉はまだ寝ている凶姫の肩を揺すって起こした。


「姫様、姫様っ、先代様が帰って来ました」


朔が倒れてからすぐ、十六夜は息吹を伴ってやって来た。

そして朔の代行として百鬼夜行に出て、動揺する百鬼たちを冷静に諫め、気持ちを引き締めさせて、朔とは違う手法で彼らを鼓舞した。

昨日輝夜と会うなり息吹は輝夜の腕に抱き着いて泣き、十六夜は労を労うようにして輝夜の肩を叩き、事情を知らない凶姫と柚葉は一体何が起きているのか分からなかったが、親子間できっと言葉では言い表すことのできない何かがあったのだろうと見受けられた。

少し開いた襖から中の様子を窺うと、会話が聞こえてきた。


「傷は深いのか」


「ええ、刀というか…あちらでは剣と言うのですが、肉が腐り落ちるように何かしらの術がかけてありました。ですが秘水を頂いたのでそれで処置ができました。数日は安静にしなければならないので、百鬼夜行は控えた方がいいかと」


「その間は俺が行く。お前は朔の傍に居てやってくれ。…輝夜、よく帰って来た」


優しい眼差しと手つきで頭を撫でられた輝夜が少し気恥ずかしそうに笑い、ふたりで朔の顔を覗き込んでいた。


「姫ちゃん?柚葉ちゃん?まさか昨日からずっとここに居たの?女の子なのにっ?」


振り向くと、晴明と朧を伴った息吹が薬湯を手にわなわなしていた。


「息吹さん…」


「ほら中に入って。もうっ、輝ちゃんったら気付いてたはずなのに中に入れてあげないなんて!」


「え、ち、違うんです、私たちが勝手にここに居座って…」


「入って入って」


追い立てられるようにして中に入った凶姫と柚葉はそのまま朔の傍まで連れて行かれると、少し顔色が戻ってきた朔を見てほっと息をついた。


「主さま…」


「月…」


呼びかけると、朔の目が――ゆっくり開いた。
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