宵の朔に-主さまの気まぐれ-
とろんとした目つきで辺りを見回した朔は、腹部に強烈な痛みを感じて顔をしかめた。


「兄さん、まだ動いてはいけません。しばらくの間は私が兄さんの目となり足となりますから」


「輝夜…お前…本当に帰って来たんだな…」


「ええそうですとも。死の国まで迎えに行ったでしょう?」


「死の国…!?」


周囲が悲鳴を上げたが、朔は輝夜が迎えに来たのを思い出してゆっくり頷いた。

朔が死の淵に居た――そして輝夜が迎えに行った…?

この優美な優男は一体何者なのか?

特にその疑問が顔に如実に表れていた凶姫をちらりと見た輝夜は、昔のようにしっかり手を握ってきた朔のその手を握った。


「俺は…お前が見た俺の未来の道から逸れていたか?」


「そうですね…今もどうなるかあまり先が見えませんね。ですから私が戻って来たんです。ところで兄さん、この可愛らしいお嬢さんたちは一体?」


“可愛らしいお嬢さん”と言われた凶姫と柚葉が頬を赤らめてもじもじし始めると、朔は痛みに顔をしかめながらもにやりと笑った。


「知ってるくせに」


「私とて全てが見えているわけではありませんからねえ」


「何が見えているの?あなたは…何者なの?」


勇気を振り絞った凶姫が身を乗り出すと、輝夜は熱した石を布で包んで血液を大量に失って寒気が襲っている朔の周囲に置きながら凶姫にぱちんと片目を閉じて見せて柚葉をどきっとさせた。


「それは追々。私は風呂にでも入って来ますから、兄さんは母様たちと歓談していて下さい」


「早く戻って来いよ」


朔が甘えている――

やけに色気のある朔の弟は謎だらけの男。


知りたい。

凶姫と柚葉は心からそう思いながらもようやく目覚めた朔の傍から離れることができず、兄弟に翻弄されていた。

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