宵の朔に-主さまの気まぐれ-
背は朔くらいか…高い。

決定的に違うのはその身に纏う雰囲気で、なんともやわらかで、なんとも優しく、なんとも――儚く感じて首を捻った。


「あなたは店でも開くのですか?」


「あ…近いうちにそうしようと思って…今色々作ってるんです」


「へえ。それは兄さんが悲しむでしょうね」


何故そう思うのか?

戸惑いっぱなしの柚葉は、肩甲骨もはっきり見えるほど細くて朔以上にすらりとしている輝夜が正面を向くと――思わず両手で顔を覆って輝夜を見ないようにした。


「きゃ…っ!」


「おや?何故顔を隠すのですか?」


「ほ、鬼灯様!前!前を隠して下さい!」


「前?」


首を深く下げて自身を見下ろしてみた輝夜だったが、別に露出しているわけでもなく、ただいつも以上に胸元が緩んでいてほぼはだけていたため、やんわり笑んで胸元を正しながら小さく頭を下げた。


「これは失礼を。前というのでもっと下の方の話かと思いました」


「ちちちちち、違います!胸元の話ですから!」


「ははは、可愛い人だなあ」


…からかわれている!

顔を真っ赤にした柚葉が近くにあった団扇で顔を扇いでいると、輝夜はまだ作りかけの草色の羽織を手にして縫い目を見ていた。


「あの…?」


「これ、少し縫い目が荒いですね。私が直しましょう」


針に糸を通してやる気満々の輝夜だったが、柚葉は目を丸くして膝をつきながら輝夜ににじり寄った。


「裁縫が…できるんですか?」


「ええ、様々な職種の方々とお会いしたことがあるので私も色々学びましたから」


すいすいと見事な手つきで繕ってゆく輝夜の手を穴が開くほど柚葉が見つめて、ふいに視線を感じて顔を上げると――すぐ傍の輝夜と目が合って慌てて目を逸らした。


朔と同じように、輝夜の目の中にも星が瞬いていた。


「手伝って頂いてありがとうございます」


「いえいえ、私の性分ですからお気遣いなく」


なんてやわらかい人なのだろう。

時が過ぎてゆくのも忘れて、ふたりで繕い続けた。
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