宵の朔に-主さまの気まぐれ-
縁側で雪男たちと談笑している輝夜の元に凶姫がやって来ると、何故か輝夜はにこっと笑って湯飲みを口に運んだ。


「もういいんですか?」


「え?な…なんのことでしょうか…」


「兄さんが呼んでいるんですね?では行ってきますか」


よいしょ、と声をかけて立ち上がった輝夜が意味ありげに含み笑いをして去ると、凶姫は咳払いしながら柚葉の隣に座った。


「本当に雰囲気の良い方ね。ちょっと何を言ってるのか分からなかったけれど」


「あー、輝夜はそういうとこあるんだ。ちょっと不思議な力があってさ。訊ねても答えない時は無理に訊かないでやってくれると助かる」


「そうなんです。私さっき一緒に繕い物をしてもらったんですけど、先見の明があるみたいで、まるで私の考えてることが分かってたみたいで驚きました」


柚葉が凶姫の方を見ずにそう言うと、凶姫は柚葉に違和感を覚えて手を握った。


「柚葉?」


「ああそういえば姫様、巾着袋ができたんですよ。見て下さい」


覚えた違和感は拭えなかったが柚葉から巾着袋を手渡されると、凶姫はそれを指でなぞってぱっと顔を輝かせた。

それをちらりと盗み見た柚葉だったが――やはり凶姫を嫌いにはなれず、凶姫を心から恨むこともできず、ふわっと笑った。


「素敵!柚葉、ありがとう!ああ私これを持って出かけたいわ」


「じゃあ後で一緒にお出かけしましょう」


「俺はここ動けないから銀とか焔とか氷輪とか白雷とか、まあその辺を護衛につけて行ってくれよ。でないと主さまに怒られるから。俺が!」


「はい」


黄色い声が縁側から聞こえてきて微笑んだ輝夜は、襖を開けてひょっこり顔だけ出した。


「兄さん、呼びました?」


「ん、入って来い」


訊きたいことが山ほどあった。
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