宵の朔に-主さまの気まぐれ-
皆で食事を摂った後、輝夜は縁側で月夜を見上げていた。

その横顔はとても儚く、どうしてそういう印象を抱いてしまうのか不思議でらない柚葉だったが――それは朧が教えてくれた。


「輝夜兄様はいつもふらっと現れて、ふらっと居なくなるんです。儚く見えるんでしょ?」


「あ…そうなんです。やっぱり皆さんもそう思ってるんですか?」


「私も輝夜兄様が忽然と消えて居なくなった時はとても悲しかったから。兄様は特に」


一体この男は何者なのだろうか?

思えば‟渡り”も輝夜が突然現れた時とても驚いていたようだったが…


「鬼灯様は主さまの傍には居られないんですか?」


「そうですね、居たいとは思いますけど、私はやることが多くて。とりあえず‟渡り”との決着がつくまでは居ますよ」


「あなたは‟渡り”に詳しいの?」


冷たい響きの声色を発したのは凶姫だった。

こと‟渡り”に関することとなれば急に冷めた表情と声になってしまい、輝夜は凶姫に向き直って頷いた。


「詳しいですよ。彼らの成り立ち、思考、戦い方…大抵は分かります。兄さんの傷が良くなれば教えるつもりですが」


「私にも教えて下さい」


「あなたに?それはやめた方がいい。兄さんはあなたに関わってほしくないと思っているから」


「どうして?」


「兄さんは次に‟渡り”が現れる時、全力で仕留めにかかるでしょう。そうなればこの辺一帯被害が出るかもしれません。兄さんの本気は災害級なんです。安全な場所に居てほしい…そう思っていますよ」


「でも…」


なお言い募る凶姫だったが、輝夜が困っている風だったため、頭を下げた。


「ごめんなさい、我が儘を言いました」


「いいえ、可愛いお嬢さんの我が儘は好きですよ。ああそうそう、柚葉と言いましたね。あなたも凶姫と共に安全な場所に居て下さいね」


まさか自分も含まれているとは思っていなかった柚葉が驚きに顔を上げると、輝夜はきょとんとして首を傾げた。


「兄さんはあなたのことも大切に思っていますから当然でしょう?」


「え…あ…ありがとうございます」


凶姫には悪いと思っていたが――嬉しかった。

嬉しさを噛み殺して、柚葉も月夜を見上げた。
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