宵の朔に-主さまの気まぐれ-
傷の治りを早くするには、休養が一番効果的――晴明にそう聞いてよく眠れる薬を煎じて飲み、睡眠をなるべく取っていた朔の元に凶姫が駆け込んできた。


「月!」


「騒々しいな、どうした?」


続いて入ってきた輝夜が心底困ったような表情で、思わず起き上がった朔は、凶姫が輝夜の手をしっかり握っているのを見てちょっとむっとして腕を組んだ。


「兄さん…すみません。しくじりました」


「何を?」


「月!私、私…また目が見えるようになるかもしれないんですって!」


「…え?」


「ええと、ですからそれは…」


――未来に関することを口にしてしまった――

輝夜が困った顔をしているのは、恐らくそういうことなのだろうとすぐに気付いた。

だがそれは、朔にとっても朗報だった。


「輝夜…大丈夫なのか?」


「いえ、まだ分かりませんが…まあ、どうということはありませんよ」


「いや、お前に罰が下るのは絶対に嫌だ。凶姫、目のことを知りたいだろうが、これ以上輝夜にそのことを語らせるな」


「どうして!?鬼灯さんが教えてくれたのに!」


「教えた、じゃなくて、誤って口にしてしまった、だ」


意味が分からない――

焦れて畳を叩いた凶姫は、輝夜の手をまた強く握って爪を立てた。


「いたたた」


「鬼灯さん…!」


「兄さん、もういいんですよ。口にしてしまったことはもう仕方ありませんし、これ以上話しても話さなくても罰が下る時は下りますから」


「輝夜…」


「罰って何なの?鬼灯さん…あなたは一体…」


「…目の話を聞く前に、まず輝夜の現状を話す。輝夜、いいな?」


「はい」


必死に唇を噛み締めている凶姫が握っている手をそっと外して息をついた輝夜は、開けた障子から見える整備された庭を見つめながら、笑った。


「長い割にはつまらない話ですが、聞いて下さい」


――だがその話は――

つまらない話などではなく、とても驚きを伴うものだった。
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