宵の朔に-主さまの気まぐれ-
輝夜の耳に心地よい話し方は穏やかだったが、いかんせん内容は穏やかなものではなかった。
まず出生――
赤子は十月十日で生まれるが、輝夜は十月未満で生を受け、その際本来助からなかった命を何者かに救われたという。
そのため本来持って生まれるべきものの何かが欠けた状態にあり、それを取り戻すために授かった力で救済の旅に出ていた――
現在過去未来、違う世界にさえも行くことができ、声にならない声を上げる者の傍へ行き、救い、功徳を積んでいけば、きっといつかは欠けているものを取り戻すことができる、というわけだ。
「そんな…そんな途方もない話…」
「理解できなくとも構いませんよ。私は別に苦と思っていませんし、私が無理を言って母様から生まれたかったので仕方ないことなんです」
苦と思っていないと言うが、ひとりだけそんな罰のような仕打ちを受けて本当に苦と思っていないのだろうか?
だが話し終えた輝夜がのほほんと茶を啜っているのを見る限りでは、それは真実のように思えた。
「ですので今回兄さんが上げた声に私が立ち上がり、あなた方の未来はおよそ知っています。私が来たということは本来辿るべき道から逸れたということ。どこがどう逸れたのかは聞かないで頂きたい」
「じゃあ…私の目の話は…」
朔が伏せていた目を上げて輝夜を見つめた。
ふたりの視線が合うと、輝夜は凶姫の細い肩に手を置いて言い聞かせた。
「‟渡り”は命を奪う者のなにかを戦利品として奪う傾向にあります。あの男の傍には傀儡が居ました。あの傀儡の手足、胴体、顔全て、生きていた者を解体して組み合わせたものです。ということはあの男はそういう術を使える者なのでしょう。だからこそ、あの男はまだ奪ったあなたの目を持っている可能性が高いということです」
「私の目を…傀儡に使うということ?」
「恐らくそうでしょう。腐らせず保存できる術を使っているはず。取り戻すことができたならば、きっとあなたの目は見えるようになりますよ」
凶姫は輝夜の手をしっかり握り、溢れる笑顔を朔に向けた。
「月!私の目が見えるようになるかもしれないわ!」
「それは俄然やる気が出るというものだな。輝夜…すまなかった」
「いえいえ、お構いなく」
朔のやる気に火が付いた。
まず出生――
赤子は十月十日で生まれるが、輝夜は十月未満で生を受け、その際本来助からなかった命を何者かに救われたという。
そのため本来持って生まれるべきものの何かが欠けた状態にあり、それを取り戻すために授かった力で救済の旅に出ていた――
現在過去未来、違う世界にさえも行くことができ、声にならない声を上げる者の傍へ行き、救い、功徳を積んでいけば、きっといつかは欠けているものを取り戻すことができる、というわけだ。
「そんな…そんな途方もない話…」
「理解できなくとも構いませんよ。私は別に苦と思っていませんし、私が無理を言って母様から生まれたかったので仕方ないことなんです」
苦と思っていないと言うが、ひとりだけそんな罰のような仕打ちを受けて本当に苦と思っていないのだろうか?
だが話し終えた輝夜がのほほんと茶を啜っているのを見る限りでは、それは真実のように思えた。
「ですので今回兄さんが上げた声に私が立ち上がり、あなた方の未来はおよそ知っています。私が来たということは本来辿るべき道から逸れたということ。どこがどう逸れたのかは聞かないで頂きたい」
「じゃあ…私の目の話は…」
朔が伏せていた目を上げて輝夜を見つめた。
ふたりの視線が合うと、輝夜は凶姫の細い肩に手を置いて言い聞かせた。
「‟渡り”は命を奪う者のなにかを戦利品として奪う傾向にあります。あの男の傍には傀儡が居ました。あの傀儡の手足、胴体、顔全て、生きていた者を解体して組み合わせたものです。ということはあの男はそういう術を使える者なのでしょう。だからこそ、あの男はまだ奪ったあなたの目を持っている可能性が高いということです」
「私の目を…傀儡に使うということ?」
「恐らくそうでしょう。腐らせず保存できる術を使っているはず。取り戻すことができたならば、きっとあなたの目は見えるようになりますよ」
凶姫は輝夜の手をしっかり握り、溢れる笑顔を朔に向けた。
「月!私の目が見えるようになるかもしれないわ!」
「それは俄然やる気が出るというものだな。輝夜…すまなかった」
「いえいえ、お構いなく」
朔のやる気に火が付いた。