宵の朔に-主さまの気まぐれ-
早速採寸が行われることとなった。
輝夜から朔の香りがすることには気付いていたが、輝夜の事情が分かっていっそうこの男の役に立ちたいと思った柚葉は、紙と筆を手に立っている輝夜を見上げていた。
「ええと、じゃあ肩幅を測ります。上だけ脱いでもらえますか?」
「分かりました」
採寸のためにそう言ったのだが、輝夜が実際胸元から腕を抜いて上半身を晒すと――ほっそりしているが意外と鍛えられている身体に目を奪われた。
「わあ…」
「嫁入り前の女子に身体を晒すのは気恥ずかしいですが、採寸ですからね」
食い入るように身体を見てしまっていた柚葉ははっとして顔を赤くしながら輝夜の肩に触れて採寸を開始すると、骨ばった感触が指に伝わってきてぱっと手を離した。
「お嬢さん?」
「あ、あの…なんでもありませんっ」
男の裸ももちろんあまり見たことはなく、ましてや輝夜は朔に匹敵する美貌の持ち主。
じいっと間近で見つめてきている視線に気付き、震える指を叱咤しながら採寸を続けた。
「い、意外と鍛えてるんですね…」
「ああ、直前まで居た場所で否応なく身体づくりをしなければならなかったので。ふふ、お嬢さん顔が赤いですよ」
「!か、からかうのはやめて下さい!」
くるりと背を向けて紙に採寸結果を書いていると、輝夜がふわふわでくせ毛の柚葉に髪に指を絡めて触れてきて息が止まった。
「ほ…鬼灯様?」
「兄さんを諦めることはできそうですか?」
「…そうしないと誰も幸せになれません」
「ふたり目の妻になる、という手もありますが」
「私は…ひとりの方を愛して、愛されたいんです。鬼灯様もそうでしょう?」
「そうか…そうですね…多分そうなんでしょう」
手を離した輝夜は着物を着直してふっと笑った。
「自問するなんていつぶりでしょうか。お嬢さんと居ると飽きませんねえ」
何が何だかさっぱり分からない柚葉、ぼそり。
「変な方」
「そちらこそ」
また例の押し問答が始まって頬を膨らませた柚葉にぷっと吹き出した輝夜は、表情を引き締めて消え入るような声で呟く。
「兄さんの未来にどう関わってくるのか…分からないというのは怖いものなんですね」
兄至上主義の輝夜は、兄のために多くのものを切り捨てる覚悟があったが――分からなくなっていた。
輝夜から朔の香りがすることには気付いていたが、輝夜の事情が分かっていっそうこの男の役に立ちたいと思った柚葉は、紙と筆を手に立っている輝夜を見上げていた。
「ええと、じゃあ肩幅を測ります。上だけ脱いでもらえますか?」
「分かりました」
採寸のためにそう言ったのだが、輝夜が実際胸元から腕を抜いて上半身を晒すと――ほっそりしているが意外と鍛えられている身体に目を奪われた。
「わあ…」
「嫁入り前の女子に身体を晒すのは気恥ずかしいですが、採寸ですからね」
食い入るように身体を見てしまっていた柚葉ははっとして顔を赤くしながら輝夜の肩に触れて採寸を開始すると、骨ばった感触が指に伝わってきてぱっと手を離した。
「お嬢さん?」
「あ、あの…なんでもありませんっ」
男の裸ももちろんあまり見たことはなく、ましてや輝夜は朔に匹敵する美貌の持ち主。
じいっと間近で見つめてきている視線に気付き、震える指を叱咤しながら採寸を続けた。
「い、意外と鍛えてるんですね…」
「ああ、直前まで居た場所で否応なく身体づくりをしなければならなかったので。ふふ、お嬢さん顔が赤いですよ」
「!か、からかうのはやめて下さい!」
くるりと背を向けて紙に採寸結果を書いていると、輝夜がふわふわでくせ毛の柚葉に髪に指を絡めて触れてきて息が止まった。
「ほ…鬼灯様?」
「兄さんを諦めることはできそうですか?」
「…そうしないと誰も幸せになれません」
「ふたり目の妻になる、という手もありますが」
「私は…ひとりの方を愛して、愛されたいんです。鬼灯様もそうでしょう?」
「そうか…そうですね…多分そうなんでしょう」
手を離した輝夜は着物を着直してふっと笑った。
「自問するなんていつぶりでしょうか。お嬢さんと居ると飽きませんねえ」
何が何だかさっぱり分からない柚葉、ぼそり。
「変な方」
「そちらこそ」
また例の押し問答が始まって頬を膨らませた柚葉にぷっと吹き出した輝夜は、表情を引き締めて消え入るような声で呟く。
「兄さんの未来にどう関わってくるのか…分からないというのは怖いものなんですね」
兄至上主義の輝夜は、兄のために多くのものを切り捨てる覚悟があったが――分からなくなっていた。