宵の朔に-主さまの気まぐれ-
どこか途方に暮れた足取りで朔の部屋に向かった輝夜は、少し惰眠していた朔の床にもそっと潜り込んで朔を驚かせた。


「なんだ?どうした?」


「兄さん…ちょっと予測のつかないことが起こりそうで少し不安になったんです」


「お前が?予測のつかないこと?ふうん」


「なんですか、その‟ふうん”は」


「いや、だってそれ普通のことだからな。誰も予測立てて生きてるわけじゃない。だから人生楽しいんだろ」


「ふうん、そんなものですか。ふうん…」


いつものんびりしている輝夜が悩んでいることはとても珍しく、朔は輝夜の頬をぴたぴたと軽く叩いて笑った。


「お前には先のことが見えるから予測がつくんだろうけど、もしお前に欠けているものを取り戻したら…その力って消えるんじゃないか?」


「そう…なんですかねえ?うーん…なんだかお嬢さんと話していると分からなくなるんですよね」


「お嬢さん?柚葉のことか?」


「ええ。私にとって彼女は特異点なんです。兄さんの未来に関わってくるのは決まっていましたけど…なんというか、少しずつずれてきているというか」


輝夜にとっての特異点が柚葉――

輝夜には自身の未来は見えないというが…だからこそ柚葉が関わってきたことで未来が変わろうとしているのか?

それはもしかして…


「輝夜、お前柚葉のことどう思っているんだ?」


「え?どうもこうもしませんよ。なんですかその質問は。私がお嬢さんを好いているかどうかってことです?」


「まあ端的に言うとそうだな。違うのか?」


「違いますよ。いやだなあ兄さん。老婆心で私とお嬢さんを親しくさせようなんて考えないで下さいよ」


「老婆心とか言うな。俺はまだ爺じゃないぞ」


ふふっと笑い合ってそれでも傍から離れない輝夜に目を細めた朔は、かつて小さかった頃こうしてよく一緒に寝ていたことを思い出していた。

あの時は輝夜が居なくなりそうで不安でいつも手を繋いでいたが、今は輝夜が傍から離れず不安そうにしている。


それはとてもとても珍しいことで、頭をよしよしと撫でてやって兄弟で惰眠に突入した。
< 210 / 551 >

この作品をシェア

pagetop