宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「傷の治りが遅いように感じますが…激しい運動は避けて下さいと言ったはずですよ」
「いや、気を付けてはいるんだ。善処する」
朔の腹の傷を検分した輝夜がため息をつくと、傍に居た凶姫は恥ずかしさのあまり輝夜と目を合わせることができずに顔を逸らしていた。
あれから数日――朝晩問わず朔と愛し合い、求め合い、密会を続けていたが、雪男と輝夜の監視からはどうしても逃れることができず、こうしてお説教をされていた。
「本当に子が先にできたらどうするんですか。父様は恐らく怒る…いや、あの方もたいそう女遊びしましたから怒らないか」
「俺は女遊びなんかしてない。父様と一緒にするな」
何気にひどいことを言いつつ、腹の傷を見下ろした朔は、もう出血もなく傷跡だけはまだ残っていたが、時々まだ疼いてまだ絶対安静を命じられていた。
「そろそろ‟渡り”が様子を見に来る頃でしょう。蜃は万能ですが、違和感を覚えられたら攻めてくるかもしれません。まあその時は私が相手をしましょうか」
「いや、‟渡り”は俺の獲物だ。できればここから離れたところで対峙したいんだが」
「そうですね、被害が出るかもしれません。地下の件もありますし、その場合雪男にはここに残って守ってもらいましょう」
「地下?地下ってなんの話?」
朔と輝夜は顔を見合わせると、三人額を突き合わせて声を潜めた。
「お前が正式に俺の嫁になったら話す。それまでは地下の件は話せない」
「もう兄さんの嫁みたいなものですが、一応まだ母様たちには伏せてありますので今は気にしないで下さい」
「分かったわ」
――近頃、柚葉が以前より頼ってこなくなった。
いつも一緒に居たのに少しずつ距離を置かれているような気がして寂しさを感じている凶姫が小さく息をつくと、まるで心を覗かれたように輝夜がふっと笑った。
「大丈夫ですよ、お嬢さんはあなたを嫌ってなどいませんから」
「え…鬼灯さん今私の心を読んだの?」
「輝夜、でいいですよ」
「でもそれって真名…」
「あなたは私たちの身内となるのですから構いませんよ。ほら呼んでみて」
わくわくされて恐る恐る真名を呼んだ。
「輝夜…さん?」
「はい、よくできました」
この一件がまだこじらせてしまうことにまだ誰も気づく由もなく――
「いや、気を付けてはいるんだ。善処する」
朔の腹の傷を検分した輝夜がため息をつくと、傍に居た凶姫は恥ずかしさのあまり輝夜と目を合わせることができずに顔を逸らしていた。
あれから数日――朝晩問わず朔と愛し合い、求め合い、密会を続けていたが、雪男と輝夜の監視からはどうしても逃れることができず、こうしてお説教をされていた。
「本当に子が先にできたらどうするんですか。父様は恐らく怒る…いや、あの方もたいそう女遊びしましたから怒らないか」
「俺は女遊びなんかしてない。父様と一緒にするな」
何気にひどいことを言いつつ、腹の傷を見下ろした朔は、もう出血もなく傷跡だけはまだ残っていたが、時々まだ疼いてまだ絶対安静を命じられていた。
「そろそろ‟渡り”が様子を見に来る頃でしょう。蜃は万能ですが、違和感を覚えられたら攻めてくるかもしれません。まあその時は私が相手をしましょうか」
「いや、‟渡り”は俺の獲物だ。できればここから離れたところで対峙したいんだが」
「そうですね、被害が出るかもしれません。地下の件もありますし、その場合雪男にはここに残って守ってもらいましょう」
「地下?地下ってなんの話?」
朔と輝夜は顔を見合わせると、三人額を突き合わせて声を潜めた。
「お前が正式に俺の嫁になったら話す。それまでは地下の件は話せない」
「もう兄さんの嫁みたいなものですが、一応まだ母様たちには伏せてありますので今は気にしないで下さい」
「分かったわ」
――近頃、柚葉が以前より頼ってこなくなった。
いつも一緒に居たのに少しずつ距離を置かれているような気がして寂しさを感じている凶姫が小さく息をつくと、まるで心を覗かれたように輝夜がふっと笑った。
「大丈夫ですよ、お嬢さんはあなたを嫌ってなどいませんから」
「え…鬼灯さん今私の心を読んだの?」
「輝夜、でいいですよ」
「でもそれって真名…」
「あなたは私たちの身内となるのですから構いませんよ。ほら呼んでみて」
わくわくされて恐る恐る真名を呼んだ。
「輝夜…さん?」
「はい、よくできました」
この一件がまだこじらせてしまうことにまだ誰も気づく由もなく――