宵の朔に-主さまの気まぐれ-
突然その‟未来”は見えた。

それは当初見えていたものとは程遠く、片手で口元を覆って絶句した輝夜はすぐ傍に居た息吹と朔に怪訝な顔をされてはっとした。


「輝夜…?」


「ああ…いえ、なんでも…」


「なんでもって顔じゃなかったぞ。どうした?…俺のことか?」


「…」


未来の話はできない。

よって輝夜が黙り込む時はその未来が関わっていると分かり、無理に聞き出そうとしても無駄なことは分かっていたが、自分のことと言うよりも輝夜の表情が気になって息吹とふたり輝夜を囲んでそれぞれが輝夜の両手を握って三人黙り込んでいた。


「兄さん…つらいことがあるかもしれません」


「そうか。それで?」


「え?それで、とは…」


「俺は自分で未来を切り開く。何が起ころうとも変わらないもの、変えなければいけないものも自分のために一番いい結果に導いて納得する。俺のことはいいんだ。お前がそんな顔をしているのは嫌だ」


輝夜を囲んで真剣な顔をしている三人を見つけた雪男と朧は、その話の内容に顔を見合わせて笑った。


「そうだぜ、俺たちもお前にそんな風に言われたけど結局遠回りはしたけど夫婦になれたし、第一さあ、お前背負ってばっかなんだよ。主さまはお前が居てくれるだけでいいんだってば」


「そう…でしょうか」


「その通りだ。俺は通常の兄弟として日々を過ごして行きたい。だけど言えないことも多いだろうが教えてくれてありがとう。気構えができる」


「そうだよ輝ちゃん。輝ちゃんが難しい顔してるのは似合わないよ?ね?」


――幼い頃、いつも天真爛漫な息吹の表情が翳っていると兄弟ふたりして取り囲んでなんとか笑顔にしようと躍起になった。

今度は自分の笑顔を引き出そうと皆が躍起になっていて、白昼夢のように見た‟未来”の光景が脳裏をよぎったが――きっと兄なら乗り越えられるだろう、と伏し目がちに微笑した。


「良かった。兄さんや母様が私の兄であり、母で居てくれて本当に良かった」


「ふふっ、当たり前だよなに言ってるの?さ、輝ちゃんお風呂に入っておいで。父様がお勤めする前にみんなでご飯を食べよ」


「はい」


当初見たものよりもかなり違う捻じれた‟未来”に、正面から向かってゆく。

ふたりに頭をぐりぐりされながら、その決意を固めた。
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