宵の朔に-主さまの気まぐれ-
深層心理の奥深くに潜り込んで、瞑想した。

そして目的の相手が見えてくると、その相手…‟渡り”がいらついている姿が見えた。

傍にあの傀儡の女の姿はなく、どうやらこの‟渡り”は逃げ惑っている傀儡を追っていてこちらに来る気配は全くない。

あの傀儡――何故凶姫を狙ったのか?

‟渡り”が指示したようでもなかったし、あの敵意に満ちた目…個人的に凶姫に恨みがあるように見えたが…


「…夜。輝夜」


「おっと、はいはい、どうしました?」


何度か呼びかけられてはっとした輝夜はまたもや心配そうな顔をしている朔に笑顔を向けた。


「お前またぼうっとしてたぞ。大丈夫か?」


「ええもちろん大丈夫ですよ。ちょっと考え事をしていただけですから」


皆で食事をして談笑していた輪から離れて縁側で瞑想していた輝夜は、肩越しに居間を振り返って凶姫の目に注目していた。

彼女の目を奪い、その目に見合う傀儡を作るまでは分かるが、今なお凶姫に執着している‟渡り”にはほかに何らかの目的があるはず。


「兄さん、傷はどうですか?」


「ん、ほぼ良い。明日から百鬼夜行に出れる位なんだけど。駄目か?」


「それは喜ばしいことなんですけど、今‟渡り”がこちらに来る気配はありませんので今しばらくは態勢を整えるべきかと」


「そうか。じゃあ鈍った身体を動かして鍛錬しないとな。付き合ってくれるな?」


「はい。基本‟渡り”は姑息な手を使ってくるので、身体面はもちろんですが精神面も鍛えて下さい。…相当なものが来ますよ」


「ん。じゃあ鍛錬は明日から開始しよう。本気で向かって来いよ」


ははっと笑った輝夜は、戦いを好まない性格で自身のためには刀を振るうことはないが――兄のためならばなんでもする気概はある。

見た未来通りになるならば、‟渡り”は朔の動揺を狙ってくるだろう。

あらゆる想定をして備えなければ。

この旅を、終わらせるために。
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