宵の朔に-主さまの気まぐれ-
翌朝、朔は枕元に置いていた天叢雲を久々に手に握った。

しっくりと馴染みのある感触にいささかほっとしていると――刀からのたまう声が聞こえた。


『貴様、俺の存在を忘れていたかと思ったぞ』


「お前みたいによく喋るなまくらを忘れるわけがない。今日は働いてもらうからな」


『おお、俺に血を吸わせるか。強いんだろうな』


「俺と同じ位強いか、俺より強い。今の全力をぶつけるからお前も手加減するな」


『応』


――天叢雲は、何百年もの間蔵に眠っていた妖刀を父の十六夜が解放してから当主に受け継ぐものとして父から譲られたが、いかんせんこの刀…よく喋る。

しばらく使っていなかったため拗ねてしばらく喋ることがなかったが、ここぞとばかりにぺらぺら喋りだした。


「ちなみに相手は俺の弟だ。手加減はしなくていいが、興奮してやりすぎるな」


『あの得体の知れん奴か。ふふ、楽しみよのう』


上機嫌でまだぺらぺら喋っていたが一切それを無視した朔は、部屋を出てすぐの所で待っていた雪男にちらりと視線を走らせた。


「お前のその手のやつはなんだ」


「これ?俺は俺の愛刀。俺も参加させてもらうと思ってさ」


「お前はどっち側だ?」


「輝夜側」


幼い頃はよく稽古をつけてもらったものだが、百鬼の契約を交わしてからは軽く刀を打ち合わせる程度で真剣勝負をしたことはない。

代々血気盛んな家側の朔は、にやりと笑って青白い光を纏っている雪月花に鞘をしたままの天叢雲を軽くぶつけて火花を散らせた。


「しばらくのんびりしていたから鈍っているかもしれないが、お前にも輝夜にも手加減はしない」


「お、おう…ちょっと…遺書書いて来ようかな…」


にっこり笑いかけた朔は、久々の戦闘に全身熱い血が駆け巡って目に青白い炎を燈した。
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