宵の朔に-主さまの気まぐれ-
剣戟と火花の飛び散る音が幾度も聞こえていた。

はらはらしっぱなしの凶姫と柚葉だったが、朔は嬉々として刀を振るっていたし、輝夜は朔の戦い方を熟知しているため苦手な角度や突拍子もない方法でもって朔を攻めていた。


「さすが俺をよく知ってるな」


「敵は正攻法ばかり使ってはきませんからね。例えば今私が凶姫やお嬢さんに向かって行ったら?兄さんを罠に嵌めてふたりに襲い掛かって目の前で凌辱したらどうします?」


朔の目がぎらりと光ると、輝夜は額がつきそうなほどに顔を近付けて声を潜めた。


「そういうのは‟渡り”の好みの戦い方です。彼らは接近戦に弱く、何重もの罠を用意して嵌まっていくのを待っているんです。そこで動揺すれば兄さんの敗け。兄さんは普段冷静だから血が上ると周りが見えなくなるでしょう?それを克服して下さい」


「簡単に言う」


輝夜の頬にできた傷が意外と深かったため、血が天叢雲にぽたりと落ちると、朔たちからなまくらと呼ばれるが刃先に少し触れるだけで深く切れてしまう名刀が唸り声を上げた。


『美味い!もっとよこせ!』


「うるさい黙れ。輝夜、ここまでにしよう。お前の顔に傷が残ったら毎日母様に恨み言を言われてしまう」


「ははは、私は男ですから別にいいですけど順番を待ってる者が居ますから譲りましょうか」


そう言ったが全身から噴き出る汗に何度も刀を握る手が滑りそうになっていて、ふたりが動きを止めると柚葉が輝夜に駆け寄った。


「鬼灯様、傷の手当てをしますからこっちに来てください」


「ありがとうございます。さ、お師匠様どうぞ」


「あの…手加減してくれよな?」


「手加減なんかするか。俺たちの師匠なんだから全力で倒してやる」


青ざめる雪男ににやりと笑いかけた朔は、腕で汗を拭いながらぎらぎらした目で雪男を待ち受けた。
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