宵の朔に-主さまの気まぐれ-
屋敷に滞在することになった姫君たちは、一度は会って話したことがある。

皆鬼族の名家の出であり、必然的に何かの集まりで顔を合わせることがあったが、そのうちの誰かと懇意にしたことはなかった。

鬼族の女は皆が皆、百鬼夜行の主の妻になれと教育されている者が多く、外見から中身まで高水準の者が多い。

そう教育を受けてきた姫君たちだったが――庭にたむろしている焔や白雷、氷輪といった若くも強く美しい妖を前に落ち着きなくちらちら彼らを見ていた。


「輝夜様、主さまはまだお嫁を貰わないおつもりなんですか?」


「そうですねえ、兄さんを夢中にさせる方が現れない、といった方が正しい感じですね」


「主さまは選り好みが過ぎるのですね。けれど私も主さまもとっくの昔に行き遅れていますから焦る必要もありませんわね」


ふたりが仲良く話をしているのを傍で聞いていた柚葉は、海里が輝夜の真名を平然と口にしたことに多少もやもやしつつ、戻って来た朔と後から入ってきた凶姫を見て笑みを見せた。


「姫様、大丈夫ですか?」


「沢山人が来たからちょっと驚いてしまっただけ。はじめまして、通り名を凶姫と申します」


「まあこれはご丁寧に。通り名を海里と申します。あなた…目が見えないの?」


閉じられたままの瞼を凝視した海里は、赤い紅を引いた凶姫の唇が僅かに吊って妖艶に笑んだのを見てぽうっとなった。


「ええちょっと不慮の事故に遭って。けれど見えているのと同じですからお気兼ねなく」


「そうなんですね………ふうん………」


「これ海里。落ち着きなさい」


「ああ失礼いたしました。つい」


…何か微妙な空気になって凶姫が首を捻った時、十六夜が起きて来て大所帯の面々を見て目を細めた。


「これは先代様!何故ここに…」


「…朔、これはどういうことだ」


「お祖母様の仕業ですよ。簡単にですが説明した方がいいですかねやっぱり」


日々百鬼夜行に出るはずの朔が支度をせず、何故か代を譲ったはずの十六夜が刀を手に現れる――


皆が目を白黒させていた。
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