宵の朔に-主さまの気まぐれ-
屋敷の客室は何十とあるが、姫君たちに個室を与えてしまうと細かく目を配ることが難しいため、一番大きな客間に一緒に泊まってもらうようにした。


「主さま、わたくしは凶姫さんと同室がいいのですけれど」


「それは駄目だ。お前も我が儘言わず連中と一緒に泊まってくれ」


「嫌ですわ。でしたら輝夜様と同室でもよろしくてよ」


「へっ!?」


輝夜ではなく変な声を上げたのは柚葉で、皆の視線が集まると恥ずかしくなって俯いたまま動かなくなり、輝夜は眉を上げてにやりと笑うと大仰に頷いた。


「いいですとも。ですが同衾するからにはそれなりの覚悟があるんでしょうね?」


「まあいやですわ輝夜様。わたくしもそれなりの覚悟でお願いしてるのですわよ?」


――雲行きが怪しい展開になってさらに柚葉が密かに慌てていると、朔は海里の頭部目掛けて軽く手刀を振り落として宥めた。


「凶姫は目下‟渡り”の標的だからお前が同室だとお前も危険な目に遭ってしまうかもしれないから駄目だ。あと輝夜の性格を知っているなら同衾すると本当にそういう関係になってしまうんだぞ。いいのか」


「そうですね…わたくし輝夜様は嫌いではありませんけれど、お尻が軽いのはよく知っていましてよ。泣く泣く諦めますわ」


「ははは、それは残念ですね」


柚葉がほっとしたのもつかの間――今度は朔の手をきゅっと握ってにこっと微笑んだ。


「では主さまと同室でも…」


「駄目!」


思わず強い口調で凶姫が声を上げると朔は輝夜と同じようににやりと笑って顔を寄せた。


「俺の嫁にはなりたくないんじゃなかったのか?」


「久々にお会いしてみたら想像以上に素敵になっていたからよろしくてよ」


「ちょ…っ」


「俺はひとりでゆっくり寝たい派だから勘弁してくれ。というわけでお前はやっぱり姫君たちと同室だからな」


可愛らしく唇を尖らせてみた海里だったが朔は騙されず、凶姫と柚葉ははらはらしつつも胸を撫で下ろす――


三つ巴ならぬ四つ巴状態で、陽が暮れてゆく。
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