宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「気に入られてしまったな」


十六夜を百鬼夜行に送り出した後解散となり、各々が自室で時を過ごしていたが、朔は機を見計らって凶姫の部屋を訪れていた。

海里が何故かべったりへばりついていたことに関しては凶姫も思うところがあり、友人の少ない身としてはどう接していいのかわからず満足に会話もできなかったが…


「どうして私が気に入られたのかしら」


「あいつはきれいなもの好きだからな。可愛いもの、きれいなもの、美しいもの、全てが好きだ。昔から男勝りで手がつけられず嫁にも行き遅れているが、反面そういった煌びやかなものに惹かれる。矛盾してるだろ」


「ふうん、よく知ってるのね」


つい棘のある口調になってしまって後悔しつつも誤魔化すために茶を口に運んでいると、急に膝をすくわれて朔の膝に乗せられて慌てて肩に掴まった。


「な、何をするのよ…」


「何もしないつもりだったけど、あんまり可愛いから。そんな嫉妬ばかりしてると身が焦がれるぞ」


「私だってこんな無様な姿見せたくないわよ。でも仕方ないじゃない、女は嫉妬する生き物なの。あなたは違うの?」


「俺?そうだな…お前の元許嫁とやらが目の前に現れたら、笑顔で八つ裂きにするくらいの嫉妬はするな」


「それ相当なものよ…」


ふふっと笑い合い、すぐ目の前にある凶姫の唇に指を這わせた朔は、何かされるかもしれないとやや身構えた凶姫の耳元でわざといつもより声を低くしてひそりと囁いた。


「なにかしたい」


「な…なにかって…何よ…」


「例えば…この浴衣を脱がせて全身唇を這わせたいとか、それ以上のこととか?」


「客人が沢山居るのになに考えてるのよ馬鹿っ」


「いつも考えてるのは、お前がいかに俺に夢中になってくれるか…その一点だと言ったら?」


――熱を上げすぎてどうしようもない男にそう愛を囁かれて拒否できる女など居るのだろうか?


「もう…夢中よ、馬鹿…」


「そっか、それは良かった。じゃあそれ以上のことをしよう」


結局のところ、朔の術中。

覆い被さってきた朔の頬をむにっと引っ張って、諦めてその愛を受け入れた。
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