宵の朔に-主さまの気まぐれ-
息吹は客人さえも食事の席に招くのが当然だと思っているため、姫君たちは最初は戸惑っていたが――

何せ朔や輝夜たちと同じ席で食事をすることなどもうこの先二度とないことなのかもしれないため、喜んで席についた。

だが彼女たちは食事を楽しむどころか目下この長男と次兄に夢中なため、凶姫と柚葉はいらいらして何度も米が喉につかえつつひそひそ。


「あの子たち露骨ね。食事を楽しむこともなく息吹さんに失礼だわ」


「私もそう思います。こんなに美味しいのに」


ふたりのひそひそ話が実は聞こえていた息吹だったが、内心嬉しさいっぱいでさらに凶姫の碗に米をよそうと、にこにこ。


「姫ちゃん沢山食べてくれるから嬉しいっ」


「だって息吹さんのお食事美味しいんだもの。いつもありがとうございます」


「いいえこちらこそ沢山食べてくれてありがとう。ほら柚葉ちゃんももう一杯食べて」


女はふくよかな位がちょうどいいという持論の下、笑顔いっぱいの息吹に癒されて和んでいると、実は誰よりも沢山食べていた海里は食後の茶をのほほんと楽しみながらずばり。


「ところであなたたちはまだ帰りませんの?」


「私たちはその…もう少しここに居ようかと…」


「ここに残っても主さまと輝夜様はあなたたちに見向きもしませんわよ?ああ間違えました。輝夜様はともかく、主さまは無駄だと言い換えておきます」


「え…」


朔が駄目なら輝夜の方を懐柔しろと父親たちに言われていた姫君三人は、にこやかに微笑んでいる輝夜を凝視して柚葉をいらいらさせていた。


「私ですか?ええそうですね、求められるなら応えましょう。ただし私は尻が軽いのでひとりには絞れませんがそれでもよければ」


――外見とはそぐわないなんとも肉食な発言に姫君たちが俄かにざわめく。


「こら輝夜、おかしなことを言うんじゃない。姫君たちは無傷でここを出てもらうんだ。妙なことはするなよ」


「いやあ冗談ですよ兄さん。どうして冗談だって分かってくれないのかなあ」


「…冗談じゃないくせに」


ぼそっと呟いた柚葉の突っ込みに輝夜が意地悪げににたりと笑った。


「おや、私の秘密を明かさないでほしいなあ」


「秘密?」


朔たちの声が重なったが、輝夜は笑っているだけで答えない。

息吹の目がきらりと光った。
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