宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「輝ちゃん。母様に何か隠してることはない?」


「隠してること、ですか。沢山ありますけど…」


「例えば…柚葉ちゃんと何かあったとか?」


「母様、それは例え話ではありませんよ?」


鼻息の荒い可愛らしい母にまた笑った輝夜は、雪男の用意した大きな氷の塊の前で縁側で涼んでいる柚葉に目をやった。


「母様、私の一番大切な秘密が暴露されたんです。なのでちょっと観察しようかと思いまして」


「輝ちゃん!それって!女の子として意識…」


「うーん、よく分かりません。ですが、興味津々ではありますよ」


ぱあっと顔を輝かせて輝夜の袖を握ってぶんぶん振っている息吹と輝夜が何やらごちゃごちゃ話をしているのを居間からひじ掛けに頬杖をついて見ていた朔だったが、そんな物憂げな百鬼夜行の主を三人の姫君たちが肉食獣の如き目つきで見ていた。


どうしても苛立ちから解放されない凶姫は、またへばりついて離れない海里と共に団子をむしゃむしゃ食べていて、朔に笑われた。


「太りたくないんじゃなかったのか?」


「いいのよ食べた分だけ舞って動くから」


「え、舞う時は声をかけて」


「いやよ。あなたは麗しの姫君たちのお相手でもしたらどう?」


「舞うのが見たい」


熱心に凶姫に話しかける様に姫君たちがざわつき、凶姫は関係を知られたくなくて朔を無視して柚葉の隣に移動した。


「ああもう早く帰ればいいのに」


「落ち着きませんよね。…姫様少し太りました?」


柚葉から腕をむにっと触られて凶姫、大慌て。


「えっ!?本当に!?そ、それは駄目よ体重落とさなきゃ!私ちょっと部屋で舞いの練習を…」


「俺も行く。見たい」


そこでまた朔の我が儘が爆発して腰を上げかけた凶姫は咳払いをしてまた座り直した。


「今度にするわ」


「なんだ、残念」


朔を袖にする女、凶姫。

自分たちの好敵手は凶姫だと定めた姫君たちは、歯噛みしながらも朔と輝夜の視界に入るためその場から去ることができず、やきもきした。
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