宵の朔に-主さまの気まぐれ-
身体が鈍ることは絶対に許されないため、全快してからは毎日雪男や輝夜たちと刃を交えていたので客人が居るからと言ってそれを怠るわけにはいかず、この日は輝夜と刃を交えていた。

互いに癖も好きな戦い方も知っているので持久戦になることが多く、炎天下の下頬に汗が伝いつつ互いに負けず嫌いの兄弟が戦っている様はなんとも絵になって姫君たちにうっとりとため息をつかせた。


「柚葉、どっちが勝ちそうなの?」


「主さま…ですかねえ…。鬼灯様は戦うのが嫌だと言っていましたから、毎日百鬼夜行に出て戦っている主さまの方が有利ですよ」


ふうん、と返してこういう時目が見えないのは損だなと思って団扇で顔を扇いでいると、どうやら決着がついたらしく剣戟の音が止まった。


「ずるいぞ輝夜」


「戦いに狡いも何もありませんとも。正攻法以外の戦い方はざらにあるんです。精進して下さい」


ふんと鼻を鳴らした朔が当たり前のように縁側に座っていた凶姫の隣に座り、当たり前のように凶姫が飲んでいた茶の入った湯飲みに手を伸ばして飲み、姫君たちはそれを歯噛みしながら見ていた。


「どっちが勝ったのよ」


「俺が敗けた。でも途中まで勝ってた」


「結果が全てなんだから認めなさいよね。輝夜さんお疲れ様」


「はいどうもありがとう」


輝夜の肩を持つ凶姫にむっとした朔は、凶姫に肩を寄せて俯きながらぼそり。


「あまり俺をいじめると、ここでばらしてやるぞ」


「や、やめて!私にあんまり構わないでちょうだい。皆の視線が痛いのよ」


「ふうん、じゃあ早く帰ってもらわないとなやっぱり」


圧倒的な存在感が邪魔をして話しかけられずただ傍に居ることしかできない彼女たちだったが――

明日には追い出されるかもしれないという局面に陥り、とある行動に出て凶姫を驚愕させることになるのだった。
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