宵の朔に-主さまの気まぐれ-
三人で散々朔の子が生みたいだの話していた姫君たちは、渦中の男が突然現れたことで言葉を失っていた。

こういう反応をされることに慣れている朔は、平然とした顔でため息をついている凶姫の隣に座ると、腕を組んで含み笑いを浮かべた。


「で?俺がなんだって?」


「い、いえ…その…」


「自分で言うのもおかしな話だが、俺とこうしてゆっくり話す機会はもう二度とないだろう。無礼講ということで、俺への不満や文句、なんでも聞いてやるから言ってくれ」


三人は顔を見合わせて、面と向かって朔と目を合わすことができないながらもちらちら顔を盗み見て本当に朔が怒らないか様子を窺っていた。


「何も言うことがないならこのまま帰ってもらうが」


「!それは…待って下さい。主さま…私たちからお願いがあります」


「なんだ」


「私を…私たち三人を主さまの妻として迎えて下さいませ」


たっぷりあんこの乗った団子を頬張ろうとしていた凶姫は、彼女たちの嘆願を聞いて的が外れて口の端にあんこがついたまま茫然とした。


――百鬼夜行の主ならば、何人妻を迎えようが許される。

子々孫々百鬼夜行を続けていくために子を成して家を繁栄させる――そして何人子が居ようと構わないという思想があったためだ。


ひとりならともかくまさかの三人――もし朔がそれを受け入れたらどうしよう、とはらはらしながらも矜持が許さずつんと澄まし顔でいると、朔が声を上げて笑った。


「ははっ、三人いっぺんにとは考えてなかったな」


「私たちは主さまの妻として相応しい女になるようにと教育されてまいりました。家柄も主さまには及びませんが古くから伝わる家の者です。私たちが血を繋ぐことできっとよりいっそう繁栄をもたら…」


「悪いがそれに応えるわけにはいかない」


「ど…どうしてですか?まさか…主さまは女が駄目とか…」


「いや、それはない。女は大好きだ」


「でしたら…!」


「大好きだが、俺はもう決めてるんだ」


三人が顔を見合わせたが、朔はにこっよ笑って微動だにせず平静を装っている凶姫の腰を急に抱いて引き寄せると、膝に乗せて全開の笑顔。


「その証拠を見せてやる」


凶姫、ぽかん。

朔、にっこり。

驚きの展開が待っていた。
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