宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「な…っ」


「口の端にあんこついてる。しかし本当に最近よく食べるな」


「い、いいじゃない別に。ていうか離してよっ」


「いやだ。まあ俺としてはもうちょっとふっくらしてくれた方がいい。お前は痩せすぎなんだ」


――凶姫を膝に乗せてなんとかそこから逃れようともがいているのに一向に離す気のない朔。

しかし凶姫は頬を赤らめつつも明らかに抵抗していて、姫君たちははらはらしながらそれを見ることしかできないでいた。


「というわけで、俺は今これに入れあげている。沢山の女をいっぺんに愛せる器用さもなければ、もう選んでいるから諦めて帰ってくれ」


「で…ですが!凶姫さんは…その…嫌がっているじゃないですか…」


「そうか?いやなのか?」


もがく凶姫を見下ろし、首筋に指をつっと這わせると、胸を叩く力がだんだん抜けてきて朔、にやり。


「だって…!こんな…み、見られてるじゃない!」


「見られてなければいいのか?何をしても?」


「は…はあっ?駄目よ!」


「出た出たお得意の‟駄目”が。悪いけどそれは聞けない。もう諦めてくれ」


――食い入るように見つめてきている姫君たち三人を黙らせるにはもう見せつけるしかない。

普段柔和な朔だが本性はやはり半分鬼。

時には冷酷に、時には残酷になる面も持ち合わせており、口の端についてあんこをぺろりと舌で舐め取って驚きのあまり凶姫が止まってしまうと――


そのまま唇を重ねて、舌を絡めた。


それをあたかも姫君たちに見せつけるような角度で見せて、さらに胸元から手を滑り込ませて甘い吐息をつかせて姫君たちの喉をごくりと鳴らせた。


みるみる身体の力が抜けて抵抗する術を失った凶姫をしっかり抱いて唇を離した朔は、そのまま立ち上がってさらににっこり。


「俺が選んだのはこの女ひとりだけ。他の女は名を覚えるつもりもないし、もう会うつもりもない。ちなみに俺がこれから何をするか薄々分かっているだろうが、見たければついて来てもいいぞ」


「い…いえ…」


顔を真っ赤にして俯く彼女たちをもう見向きもしなかった朔は廊下に出て歩きながら首筋に爪を立てられた。


「いてて」


「ちょっと…っあんなことしたら皆に知られて…」


「もう知られても構わない。見た奴には好きなだけ言わせておけ」


どこ吹く風の朔に、もう諦めるしかないと悟った。


「馬鹿…」


弱弱しくそう呟いて、身体を預けた。

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